第2話 刹那

また今年も、夏が終わる。


忙しない毎日を過ごしながら、ふと懐かしい匂いを感じて思い出すのは、子供の頃の記憶ばかり。いつからこんなにも、感覚が鈍ってしまったのだろう。

LEDはここに生きる私たちを明るく照らす。そして星々はこの街から姿を消した。



あの煎餅屋を訪れてから、既に1ヶ月程経った。仕事に追われバタバタと毎日を過ごすうちに、あっという間に夏が終わろうとしている。

心と身体は疲れ切っていたが、もう一度あのおばあちゃんに会いたい。定休日や営業時間を調べようと、検索をかけてみたがまったく引っかからなかった。


もし今日はやっていなかったら、また後日訪れよう。




あの日と同じように電車にのり、今回はしっかりとあの駅を目指す。不思議と心が軽い。このワクワクとした気持ちを感じたのはいつぶりだろう。

小走りでホームを降りて改札を出る。

少し裏道に入ったらすぐ目につく場所に、

‥あるはずだった。



そこにおばあちゃんの姿はなく、あの淡い光も灯っていなかった。お店の近くまで来て、少し息が上がった私を見て驚いた人がいた。

「あの‥何か御用でしょうか?」

低い声が聞こえてきて、ようやく人がいたことに気がつき顔を上げた。

「あの、ここのお煎餅屋さんは‥」

そう私が尋ねると、彼は深く息を吐いて

「1ヶ月ほど前に、店を畳みましたよ。」

「‥え?」



息を整えながら、思考を巡らす。

1ヶ月前ということは、私が来たあの後、そう時間の経たないうちに閉めてしまったということなのだろうか。あの時おばあちゃんがくれた、おまけの意味を深く考えてしまった。

「あの‥ここでお店を切り盛りしてらした、おばあちゃんは?」


「今は近くの病院に入院しています。」

少しホッとした。

私が口を開く前にそのまま彼は続けた。



「でも、もうお店は開けません。」

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