第5話 最後の指

 木を隠すのなら森の中だと言われる。

 人間を隠すなら、最も人口密度の高い都市がいいのだろう。

 俺は、東京都内の高級マンションを与えられ、生活の心配をすることはなくなった。


 生活費も振り込まれる。

 毎回振り込まれる銀行が違い、金額も違う。通貨レートが違うらしい。

 俺に接触してくる黒服の男達からは年金だと説明されたが、どうやら、年金の支給先は一か国ではないらしい。


 俺は、国際的な重要人物になってしまったようだ。

 両手の義手を外すと、俺には右手に3本指があるだけだ。

 だからだろう。俺の口座に、障害者年金という名目で振り込まれる。


 よほどのことがない限り、もう呼び出されることはないと約束してくれた。

 俺には、不自由ではあるが平穏な余生が待っているはずだ。

 俺は、決めていることがある。

 残された指が一本だけになった時、殺そうと決めている人間がいる。

 その時が来ないことを、俺は祈っている。


 ※


 人生とはままならない。

 他国の代表や宇宙船の生体コンピューターよりはるかにくだらない理由で、3年後には二本の指を失った。

 実にくだらないことだ。


 個人的な愛憎劇だ。

 俺は、最後に残った右手の親指を見つめながら、右手の義手で左手の義手のボタンを押した。

 俺は、かつて愛した女の死体の上で、右手の親指を失うのを見ていた。


 自分自身を殺す呪いが有効かどうか、それが有効であった場合、俺自身に記す方法はない。

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呪殺と代償 西玉 @wzdnisi2016

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