エピローグ
あの日から三年半が過ぎた。鮮烈な印象を残したあの日の登山、あの日の御来光ではあったが、時の流れと共に日常の記憶に上書きされ、今となっては思い返す事も困難だ。
僕の生活は登頂前後で特に変化はしなかった。日々平凡な日常を送っている。
後頭部の痛みは相変わらずで、悪化はしていないものの良くもなっていない。
しかし、世界の方は随分と様変わりしたように思う。
三年前の冬、中国の武漢より発生した新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにより、人々の生活様式は大きく変化する事となった。
マスク着用の義務化、劇場などの入場数制限、定期的なワクチン接種の推奨等々。
著名なコメディアンが亡くなり、日本史上初の緊急事態宣言が発令され、外出自粛が叫ばれる。富士山も江戸時代の宝永大噴火以来初と思われる登山道の封鎖が決まった。
この長きに及んだウイルス関係の騒動であったが、昨年になりようやく沈静化した。というより日常化した。
しかし、昨年はロシアのウクライナ侵攻というまさかの事態が発生した。紛争は今も続き、事態終息の糸口は未だ見えない。
そして、この日本でも元首相が街頭演説中に一般男性の自作銃による銃撃を受け死去するという前代未聞の事件が発生した。
ここ数年の歴史の流れは、まるで、全人類が終末という列車に乗せられ破滅という終着駅へ向けて全力で突き進んでいるようにも見える。
…とはいえ立ち止まる事は出来ないだろう。結局は進み続けるしかないのだ。
そして、諦めず進み続けていればいずれ道が拓ける…そんな気もする。
…どうやら、あの登山の経験は僕を少しだけ楽観主義者に変えていたようだ。
-END-
富士登山 たかばしえい @takabasiei
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