第79話 友人との再会

 前にここを通った時はジュビエール達と共にいた。咎められるどころか、頭を下げられたものだが。

 次は誰が出て来るだろうか。

 冬の太陽は柔らかな日差しを振りまいているはずなのに、私の頭に熱が上がっていく。後頭部を流れる汗を感じた。これまでとは違う意味で早くなる鼓動を、姫も感じてしまうだろう。


 クラムが私の心情を読み取ったように、更にゆっくりと城門に近づいていく。

 カミュートは目の前だ。

 辺りを見渡せば、国境門を行き交う兵士は皆カミュートの者のようだ。その兵士たちの間をぬって、門まで進んでいく。


「通して、もらえるか?」


 門の見張りは若い兵士だった。


「は! どうぞ、お通り下さい!」


 ガクッと力が抜けるのを感じる。ジュビエールのマントか、騎乗していることか、それとも誰が来ても通す命令か、門の見張りの態度に呆れ果てた。

 これでは見張りとして、何の意味もないだろう。

 私たちは呆気なく、国境を越えた。

 国境を越えてしばらくは、都に向かう道を進んでいく。そして周りにカミュート兵がいなくなったことを確認すると、私は方向を変えた。


「アイシュタルト? どうしたのですか?」


「姫。行き先は都ではありません。しばらくその身を隠す為、一緒に来ていただきたい場所があります」


「え、えぇ……わかりました。アイシュタルトが連れていって下さるのですから、どちらでも大丈夫です」


 姫の了承を得て、私が向かうのは地図から消えた村。サポナ村だ。

 壊れた建物の影にクラムを隠すように繋ぎ、姫を抱き上げ、村の奥でたった一軒、綺麗な形を保ったままの家の前に立つ。


「姫、少し離れていて下さい」


 私からほんの少し距離をあけたところに姫を降ろし、剣を構え、扉に手をかけた。

 ギィ、と扉を軋ませながら、ほんの少しだけ開ける。

 バタン! 大きな音を立てて一気に開かれた扉の奥から、剣が降りかかってきた。

 剣同士が大きな音を立ててぶつかり合う。何度も打ち合っているうちに剣の筋に、つい懐かしさを感じて、楽しさすら浮かんできた。


「おい! 二人とも何やってるんだよ! 見つかるって、早く入れよ!」


 ステフのはるか後方から、私の正体に気づいたルーイが大きな声を上げる。肩越しに見える茶色い頭がなんとも懐かしい。


「ふふ」


「ククッ」


「兄さんに、怒られてしまいました」


 私たちは剣を納めて、顔を見合わせて笑い合った。


「ステフ、ルーイ。久しぶりだ」


「おぅ」


「はい。お久しぶりです」


「ルーイの提案に乗って、お連れした方がいる」


 私は一度家の外に出て、姫の手を取り、一緒に家の中に入る。


「アイシュタルト、その人って?」


「シャーノ国第一王女。クリュスエント様だ」


 私の言葉に、隣に立っていた姫が軽く頭を下げられた。フラつくこともなく、優雅に振る舞っていらっしゃるのはさすがである。

 姫の紹介に、ルーイもステフも慌てて膝をついた。


「本当に連れてきたの?!」


「兄さん! 王女様の御前だよ!」


 膝をついても、言葉遣いは変わらぬルーイにステフが顔色を変える。


「わ、わかってるけど……」


「アイシュタルト、この方たちはどなたですか?」


「この二人は、私と共に旅をしてくれていた……友人です」


 二人のことをそのように紹介することを照れ臭く思う。


「アイシュタルトのご友人……お二人とも、姿勢を直して下さい」


 姫が二人にそう声をかけると、二人が恐る恐る立ち上がるのが見えた。


「初めまして。ご挨拶が遅れました。シャーノ国王女、クリュスエントでございます」


 本来ならば下の者から挨拶すべきところを、敢えて姫が順序を破ってくださる。

 私の友人二人へ、敬意を払ってくださることがわかった。

 姫の心遣いを嬉しく思う。


「ルーイです」


「ステフと申します」


 二人と顔を合わせて、姫が優しく微笑んだ。

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