第67話 コーゼへの旅路

 もし、私の邪魔をする者がいれば、敵味方関係なく本気で斬りかかってしまうだろう。できれば、味方にはそのような真似はしたくないものだ。


「わ、わかった。私は王を捕らえに行く。其方もそれを邪魔してくれるなよ」


「あぁ。王なんぞ、どうでも良い」


「其方の目的は、それではないというのか」


「ククッ。まぁな」


 王のことは好きに捕らえれば良い。私の目的はたった一つだ。邪魔はさせぬ。


「其方の考えはよくわからぬ。カミュートの不利にならなければそれで良い。明日からは、私の手をわずらわせてくれるなよ」


「補佐として、その任務しっかり果たしてみせます」


 そのように、心にもない言葉を口にする。



 ジュビエールの話通り、翌日私たちはコーゼに向けて出発した。

 城の抱える騎士団に加わる形で参加を果たした傭兵は数少ない。馬を連れてきた者も少なければ、その技術が納得いく水準であった者は更に少ない。傭兵だと一目でわかる格好で、隊長の横に控える私は目立って仕方がない。

 目立たぬように動くつもりであったのだが。

 まぁ良い。どちらにせよコーゼの城までは何もできぬ。


 カミュートの都を出て、可能な限り早い速度で国境門へと向かう。旅人として、ルーイやステフと通ってきた道を、騎士として戻って行く。

 覚えのある景色を見ては感慨深く感じながらも、それに浸っている間はない。景色は次から次へと私の視界を通り過ぎていった。


 国境門へ到着する直前、ロイドの住まう街やサポナ村を目にすれば、さすがに気持ちを持っていかれる。国境門からコーゼの兵が入ってきているようには見えぬが、街に残ると決めていたロイドは無事であろうか。


 ルーイやステフはもうサポナ村に着いたのだろうか。サポナ村の奥、家のある辺りに注目しても、誰かが居る気配を知ることはできない。

 二人のことだ、生活するにしても殊更に注意しているのだろう。怪我をしていないだろうか。野生の獣に襲われたりしていないだろうか。ステフとの訓練は、本当に満足いくものであっただろうか。


 考えてもどうしようもないことを考えてしまうのは、一直線に国境門を目指すこの道が、つまらぬものだからだろうな。


「アイシュタルト、つまらないか?」

 

「敵の一人すら出てこぬ道がつまらないわけないだろう」


「都の直前までは何事もなくたどり着くと伝えたではないか」


「承知しておる。それとつまらないという感情とでは話が別だ」


 ルーイとの旅は雑談ですら楽しかったいうのに。

 私がこれまで過ごしていた城での生活というのはこのような暮らしであったか。やはり、もう城への生活に戻ることはないな。


 何の刺激もない道中に辟易しながら、それでも私達は国境門へと辿り着く。

 カミュート側の門もコーゼ側の門も既に開け放たれていて、カミュートの兵は自由に行き来をしていた。陥落したというのは事実のようだ。


 見張りに立っている兵士に挨拶をし、コーゼの門の中へと足を踏み入れる。

 ここに、この国に姫がおられる。

 焦る気持ちを抑えて、ジュビエールから次の指示を仰ぐ。


「騎馬隊はこのまま都の手前まで進んで行く。ここまでとは違い既に敵国の中だ。いつ、どこから、刃を向けられるかわからぬ。肝に銘じて進んで行くように」


 城の騎士達が声を揃えてジュビエールの指示への了承を示す。

 それに揃えようとしなかったのは、指示に了承できなかった表れか、それとも傭兵としてのプライドか。


「補佐役だろ?」


 私の態度にジュビエールが文句を呟く。


「悪いな。私は私で動かせてもらうからな。其方の指示は聞けぬかもしれぬ」


 皆の前で形だけでも従ってしまっては、今後何を言われるかわからぬ。

 私は私のやるべきことをやりにきただけだ。

 

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