第66話 騎士 ジュビエール

「おい、ジュビエール。何やってるんだ! 召集がかかっているぞ!」


 私が再度口を開こうとした時であった。遠くからジュビエールという人物を呼ぶ声がする。


「おぉ! 今行く」


 目の前の人物がその呼びかけに応える。

 ジュビエールとはこの者のことか。


「ジュビエール様。私なぞに構われず戻られた方がよろしいのではないでしょうか?」


「うむ」


 ジュビエールは私のことが気になる様子ではあったが、そのまま戻って行った。

 くだらぬやり取りに巻き込まれたな。

 誰にもバレぬように、ため息を一つこぼした。


 

 そこから数日は陣形の確認や増える傭兵たちのために城の中で過ごす。国境門での戦いを勝利でおさめているカミュート軍は余裕があるようだ。

 当然私も城内で過ごすことになるのだが、どこであろうと寝られさえすれば構わない。

 たった一つ、面倒なものを手なづけてしまったと、後悔したのはそれだけであった。


「アイシュタルト! 今日も手合わせしよう!」


 このような場所で私に話しかけてくる物好きはたった一人。ジュビエールだ。

 初日に私と睨み合ったジュビエールはその後も何度か私を見つけて話かけてきた。

 最初は私を嘲笑うような態度であったのに、いつからかそれが軟化し、今では手合わせをするほどである。


「他の騎士とやってこい。其方には同僚がいるであろう?私などに構うな」


「他のは弱くて相手にならぬ。其方がちょうどいい」


 確かにジュビエールは強い。剣の一振りが重くて受け止めるのは私でも厳しい。

 ステフが持っていた重たい剣もジュビエールであれば使いこなすだろうな。


「仕方あるまい。それでは昨日の話の続きを聞かせてもらうぞ」


「おう」


 戦いを前に、強い者との手合わせはこちらもありがたい。

 ジュビエールと私は剣を交えながら様々な話をした。


「それで、出陣はいつだ?」


「明日、騎馬隊が先に出る」


「騎馬隊だけで行くというのか?」


「あぁ。コーゼの国境門は既に陥落している。その先も都までは戦いもなく進んでいくことができると、先遣隊が報告を上げた」


「戦いもなく?」


「あぁ。リーベガルド王は求心力がないようだ。そもそもコーゼを滅ぼすと決めたのも民を救うためであるからな。それを表に出し、武具もない、求心力もないでは、戦う兵士もおらぬよ」


「それでは、私たちはコーゼで何を?」


「王を討つ。いや、捕らえる。これが私たちに課せられた使命だ」


 明日以降の出陣に備えて、ジュビエールは私に様々な情報を与えた。

 先発するのは騎馬隊。その後歩兵の出陣。騎馬隊は一直線に国境門から都へ向かう。都の門を開け、都内の兵士を捕らえる。平民たちはできる限り無傷で捕らえ、反抗するつもりがなければその場で解放。平民たちの処理を歩兵に任せて、騎馬隊は城へ向かう。そして城内に残るであろう王族を捕らえる。

 ジュビエールがまくしたてるように私に話をした。


「そ、其方、そのように詳しく私に話してよいのか?」


「アイシュタルトには私と共にコーゼへ向かってもらう」


「其方の隊に入るということか?」


「あぁ。補佐役をお願いしたい」


「正気か?! 私は傭兵だ! 何をするかわからぬではないか!」


 自分で言うのもおかしな話だが、傭兵に重要な任務を任せることなどない。その場で雇い入れた者に、そのような信頼はおけぬのだ。


「何かする気があるのか?」


「そのようなつもりは……」


 コーゼに不利になるようなことはしないが、姫を連れ帰るというのは、カミュート王の意思に反することである。


「ならば、よいではないか」


「私には、私の目的がある。それを果たすために傭兵として戦いに出る。それだけは曲げられぬ」


「フッ。安心しろ。私はお目付け役だ。其方の様に強い者を好き勝手に動けるようにはさせておけぬだけだ」

 

 その方が幾分安心できる理由だ。


「私の邪魔を、してくれるなよ。其方と剣を交えるのは訓練だけで良い」


 私は笑顔でジュビエールにそう言った。

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