第51話 都の門番
「お前たち、都に何の用だ?」
都を取り囲む壁に作られた門の前で、私たちは門番と思われる兵士に行く手を阻まれた。
確かに私たち三人の組み合わせは少し異色に見える。
「俺は旅商人なんだ。今、都で武具がよく売れるって聞いたからな、持ってきたんだよ」
門番の前に一歩進み出て、ステフがあっさりそう答えた。
「旅商人だと?」
「あぁ。通行証も持ち歩いてるよ。確認するかい?」
「後ろの二人は?」
「後ろ? 彼らは俺の付き添いだよ」
兵士の視線がステフの後ろに立っていた私たちに注がれる。
ステフよりも明らかに歳上である私たちが、ステフの後ろにいるのは、どう見てもおかしい。兵士が不審に思うのも無理はない。
「付き添いだと?」
「仕方ないだろ。最近物騒だからな、護衛を雇ったのさ。俺はあまり強くないんでね。もう一人は、見習いってところかな。旅商人になりたいと言ってきたから、一緒に巡ってる」
ザッ。兵士が私の前に立ちはだかり、私のことを睨みつける。
「其方、護衛だというのか?」
「はい。兵士として雇ってもらおうと都に向かっている途中、この商人に出会ったのです」
「兵士……だと?」
「この度の戦は、大きいものになると伺いました。微力ながら、カミュートの助けになれればと思ったのです」
「傭兵希望か」
「はい」
「わかった。通って良い」
門番が私たちに道を開ける。無事に通ることができそうだ。
「ありがとうございます。ところで、傭兵の募集はどこに向かえばわかりますか? 都にはあまり縁がなく、教えていただきたいのですが」
「募集は城の手前にある広場に張り出される」
「ありがとうございます。これで少しはお役に立てそうです」
私は笑顔を作り上げて、兵士の横を通り、三人で門の中へ入って行った。
門番にこれ以上怪しまれぬように、しばらくはステフを先頭に、私とルーイが付き従うように真っ直ぐ歩き続ける。
「ふぅ。無事に入れたな」
門が背後に見えなくなるところまで歩くと、ルーイが安堵の息をこぼした。
「あぁ。ステフのおかげだ」
「いえ。いつもあのような感じなので、何も特別なことはしてません」
「兵士がアイシュタルトのところに向かって行ったときは驚いたな」
「私の腰の剣のせいだろうな。それに、ステフよりずっと歳上なのも気にはなるだろう」
傭兵になりたくて都に来たと言った方が自然だと、前もって助言をしたステフの見通しに、感謝するべきだろう。
「ステフのおかげだな。すげぇよ」
「役に立てて良かった」
「アイシュタルトもさすが騎士様だったな」
「ふっ。あのような振る舞い、久しぶりであった」
城で使っていた言葉遣いと貼り付けた様な笑顔。カミュートで役に立つ時がくるとは、思いもしなかった。
「まずは、さっき言ってた広場にでも行ってみよう。その後は少し都内を歩いてみるか」
「露店の出ている場所があれば、そちらにも寄ってみたいな。知り合いがいれば、話を聞くことは簡単なんだ」
「私は城も見ておきたい。シャーノと他国の城がどう違うのか、気になる」
都に入っても、すぐにやらなければならないことがあるわけではない。コーゼとの開戦まで、カミュートの攻め方がわかるまで、情報を集めながら待つしかないのだ。
それぞれがやれること、やるべきことを思い描きながら、都での行き先を伝え合う。
都の中のことはステフが知ってはいるが、それでもそこまで熟知しているわけではない。ルーイも必要がないと都にはほとんど足を踏み入れたことはなく、私に至っては考えるまでもない。
全員が都のことは手探りなのである。それならば、誰かに遠慮をすることなどなく、率直に考えを伝え合おうと、そう決めてここまで来ていた。
全員が対等に意見を言い合う。それだけお互いのことを信頼していた。
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