第52話 都の中
それぞれにしたいことを言い合った私たちは、最初に城の前の広場に行くことにした。そうすればそのまま城も見ることができるだろうと読んだせいだ。
「広場って、ここかぁ」
人が、特に兵士たちが溢れている広場で、私たち三人は明らかに異質に見える。
「城からの通達はこの板に張り出されるんですよ」
ステフがそう言うと、掲示板を指さした。今は何も掲げられていないただの板のようだが、ここに掲示されるものを待って、これほどの人数が集まっているというのか。
「わざわざここまで見に来なければならないのだな」
「そうですね。詳細についてはここまでくる必要がありますが、何か張り出されたものがあれば、その噂はすぐに広まりますから、その時に確認すればいいと思いますよ」
「それなら、次にここに来るのはその時でいいな」
「そうなるね。そしたら次は、城に行く?」
「城壁の外から見るだけでいい。以前、ステフがコーゼの城は低く造ってあると言っていたが、それほどまでの違いが国によってあるものなのか、確認しておきたい。そうすれば、いざコーゼの城を見たときにうろたえずに済むだろう?」
「なるほど。そしたら、このまままっすぐ行こう」
広場は大して気にするような場所でもなく、掲示板の場所とやたら増えた兵士の人数を目の当たりにするだけに終わった。私が気になっていたのは城だ。
「ここが、カミュートの城?」
「そう。兄さんは初めて見るの?」
「あぁ。こんなところまで来る必要ないからな。城なんて初めて見た」
私の目にはそれほど大した違いは無いように見えた。ある一部を除いて。
「窓が、多くないか?」
「窓? 多いか? こんなもんじゃねぇ?」
「城壁の外から見える部分だけのことではあるが、シャーノの城に比べて明らかに多い。そして大きい」
「カミュートは夏が暑いからかもしれませんね」
「夏、そうか。少しでも風を入れようというのだな」
だが、これほどまでに大きく多い窓では、攻められたときにどう対処するのか。
私なら、どうするだろうか。ついこの城に攻め入る自分を考えてしまう。周辺にある木を伝って、窓から侵入することすらできそうだが。
コーゼの城はこのように見ることもできぬということか。もしカミュートが防衛に注力し、コーゼへ攻め入らずに戦を終えようとしたら、姫に会うのはかなり困難になる。
その時はしばらくコーゼで生活し、機を伺うしかない。
「アイシュタルト? 参考になりました?」
「あぁ。この様に城壁の外からでも垣間見ることができるというのは、侵入する側にとってはありがたいものだな」
「物騒なこと言うなよ」
「このように窓が大きいのであれば、危なくはないのか?」
「たしか、聞いた話によればバルコニーが無いそうですよ」
「そういうことか」
シャーノでは当たり前に存在した、窓の外のバルコニー。あれがないのであれば、侵入は難易度を上げるな。
「そろそろ、次いかねぇ? 店を見て、宿を探さないと」
「すまない。そうしよう」
ルーイの声に慌ててその場から移動しようとする。ステフが見たいと言っていたのは露店であったな。知り合いの商人がいれば情報収集ははるかに簡単になるが。
城から広場を抜けて横道を入っていく。別の街や村から来た者の為に、宿や店が立ち並ぶ一区画が作られているのは、どこの国も街も同様だ。
日が傾きかけているのを見ると、早めにその区画へ入り、食料と宿も手配したいところだ。
屋台に並んでいるものを見ると、やはり剣や盾のようなものが多いのは、戦が迫っているせいであろう。ステフはそれを売っている商人の顔を、私とルーイは商品自体を見ながら歩く。
「シ、シュルト!」
ある店の前に商品として並んでいた一頭の馬を見て、私は思わず声を上げた。
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