第50話 都まで
結局サポナ村で一夜を過ごし、翌朝街へと戻る。そして私たちはそのまま、都に向けて出発した。
そこまで遠い距離ではないとはいえ、やはり都にたどり着くまでには、いくつかの街で寝泊まりしなければならなかった。
都に近づけば近づくほど、街道を歩く兵士の数が増え、空気が緊張感に包まれているのを肌で感じる。
都にほど近い街で最後の宿をとり、私たちはこれまで以上に話し合いを重ねた。
私が国境を越えようとしているということなど、誰かの耳に入るわけにはいかない。緊張感の高まった都の中ででは、誰がどこで聞いているかもわからぬ。
詳しいことは全て決めてから都に入ろうと、全員の思惑が一致していた。
「何だか、嫌な感じだな」
「兵士たちが都に集まっているのだろう。戦の前だ。仕方がない」
「ですが、まだ開戦が決まったわけではありませんよね? 都で何をするんです?」
「招集がかかるのを待っておるのだろう。大がかりな戦であれば、最前線にでも今回限りで雇われる様な兵士が加えられる」
「最前線になんか行きたいのか?」
「腕に自信がある者ならば行きたいだろうな。活躍し、その腕が認められれば、城で雇い入れてもらえるかもしれぬ。もしくは褒賞目当てか」
最前線に行きたい最大の理由は、村や街を襲うことかもしれぬが……それはわざわざ二人に話すようなことでもない。
「アイシュタルトも最前線に行きたいのか?」
「いや。私はその後で良いな。コーゼはカミュートを手に入れようと攻め入ってくると予想されているが、カミュートはどうであろうか。もし、コーゼと同様に攻め込んでいくのであれば、都までの道が開いてから入っていきたい。今回の戦、防衛だけであるのであれば、せめて国境に兵士が入り乱れてから、身を隠すようにして入っていければよい」
私の目標はコーゼの城にいらっしゃる姫に一目お会いすることだけ。そのご無事さえ確認できれば、コーゼでやることは何もない。
後はカミュートが、ここに残していくこの二人が、無事であれば……それだけだ。
「それなら、カミュートの攻め方を探るしかないな」
「攻めるのか、守るのか、ということか?」
「そう。アイシュタルトがどのタイミングで兵に参加するのか、それを探らないと」
「開戦後は? どうせその後も兵の募集がかかるはずだよ。都の中だけじゃなくて、カミュート中に。それにまぎれるのはどうかな?」
「募集なんて、かかるか?」
「しょっちゅうね。多分コーゼに攻め込まれる回数が多すぎて、カミュートの城では雇い続けられないんだ。人数はいつも違うけど、最近じゃあ戦の度に募ってるよ」
「戦は費用がかさむからな。ステフの話を信じよう」
「今回は規模が大きくなると言われています。間違いなく、第二、第三と続くでしょう。その頃には、戦略も漏れ聞こえてくるかと思います」
たった数ヶ月の間の、ステフの成長に目を見張る。ルーイに言われるまま、何人もの商人と話をしたのが良いのか、ロイドに何か助言を貰っていたのか、良い成長をしたようだ。
あんなにおどおどしていたのにな。
「ルーイ、ステフ。もし私が戦に赴くときが来れば、私のことは知らないふりを通せ」
「何で?!」
「わかりました」
私の言葉に、疑問を投げることなく、了承を表す。こちらの意図をすくい上げる能力は、確実に上がっていた。
「兄さん。多分、僕らのためだよ。国境を無断で越える、そんなことを僕らが事前に知っていて、それがバレた時のためだ」
「知らないふりなんてできない。いつでも、何だって力になるから、頼ってこい」
私の言葉に、わざと反発したルーイの真っ直ぐな眼は、その言葉が本気であることを物語っていた。
いつもの察しの良さで、ここは呑み込んで欲しいところではあるが、何かあればステフが止めてくれるか。
ルーイの力強い言葉と眼は、ここから先、私を何度も支えてくれることになるだろう。
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