第42話 新しい剣

「はっ!」


 ドサッ! ステフが力を入れて剣を振るうと、兎がその場で倒れた。


「もう、こっちの森では何が来ても平気だな」


 ステフが倒した兎の耳を掴み、私はステフの剣の腕の上達ぶりを確認する。


「アイシュタルトがつきっきりで教えてくれるからです。兄さんにも言われましたが、騎士様に直接教えていただくなんて、本来できないこと、感謝しています」


「私もステフの情報に助けられてる、お互い様だ」


 ステフが王の容体の情報を持って戻ってから、半月が経った。ルーイの読み通りなのか、まだカミュートは暑いという判断か、コーゼとの関係は良くも悪くも止まったままだ。

 それでも、カミュートの中では戦準備が着々と行われており、国境から少しでも遠くに離れようと、街から出て行く人々がいる。


「そろそろ約束のひと月が経つ。近いうちに剣を受け取りに行こう」


「はい!」


 自分の背格好に合わせて作らせた剣は、きっと今のものより体に馴染むであろう。剣を受け取り、近いうちに訓練場を変えよう。


 獣を狩るだけにしておくつもりであったが、コーゼとの戦が始まる。その時に私が側にいられないことを考えれば、その前に私とも手合わせしておくべきか。

 刃を持って向かってくる人間の相手など、想定したくもない。その様なもの、ステフに教えたくはない。いざとなれば、ルーイの逃げの巧さに期待をしたい。

 だが、教えぬわけにはいかぬ。せめて、向かってくる刃を跳ね除けることぐらいは。私から二人にしてやれることなど、他にないのだから。


 

「長いこと待たせて悪かったね」


 ステフの剣を受け取りに二人で鍛冶屋に来れば、予想通り剣は完成していた。


「これが、依頼されていたものだ。注文通り、装飾を減らして軽く作ったが、どうだ?」


「うむ」


 職人から剣を受け取ると、少し軽すぎる気もするが、ステフが気軽に振るうことを考えれば、このぐらいの方が良いのか。


「軽いだろ? 振り回すのは簡単だ。だが、相手にぶつけて使うには、向かない。だから、少し切れ味が良いようにしておいた。刃こぼれした時にはまた持ってこい。待たせてしまったからな、それぐらいはしてやるよ」


 私はステフに剣を渡しながら、職人の話を聞く。獣相手ならばそれでも問題ないか。一太刀が重いものよりも、何度が振れるものの方が、向いてるかもしれぬ。

 

「ありがたい。いいものを作ってもらった」


「お代は……」


「あぁ。これで足りるだろうか」


 そう言って私は職人に銀貨20枚を握らせた。


「こんなに! じ、充分だ」


「良い仕事をしてもらったからな。また、何かあれば頼みたい」


「もちろんだ!」


 職人に礼を言うと、私たちは鍛冶屋を出る。それにしても良いものが手に入った。都以外にあれほどの職人がいるとは。

 私が満足していると、後ろでステフが真っ青な顔をしているのが目に入った。


「ステフ? どうした?」


「ぼ、僕このような立派なものを持つなんて、できません!」


「何故だ? 良いものだ。ステフの体に合って、使いやすそうだったが?」


「だ、代金が」


「金貨一枚なら釣りがくると言わなかったか?」


「聞きました! ですが、僕払っていません」


「あぁ。そんなことか。ステフがこれまで狩りをして売った獣の代金を使った。足りない分は私が出したが、大した金額ではない。金貨は残しておくと良い」


「そんな……」


「それならば、ステフがもたらしてくれた情報料だ。旅商人とでは私は話をすることもできぬ」


「は、はぁ」


 ステフの納得できない気持ちもわかるが、何が起きるかわからぬ。持てるものは持っておいた方が良い。

 情報も剣術も貨幣もこれから間違いなく必要になる。得られる時に得られるだけ手に入れておくべきだ。

 

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