第41話 ステフの報告

「ただいま戻りました!」


 ロイドと話をしてから、数日が経ち、ステフも国境に近い村から無事に戻ってきた。


「おかえり」


「ただいま!」


「何事もなく、何よりだ」


「少しは暑さも和らいできました。アイシュタルトもお休みできました? 兄さんに無理を言われてませんか?」


「ククッ。大丈夫だ」


「ステフ、ちょっと酷くねぇ?」


「そんなことないよ。兄さんはアイシュタルトに甘えてばかりじゃないか」


「そんなこと、ねぇよ。なぁ?」


「あぁ。私の方が助けられてるからな。ステフも疲れただろう? まずは座ると良い」


「すいません。ありがとうございます」

 

 立ったまま話し始めたステフに椅子を勧め、私とルーイも座ってステフの話を聞こうとする。


「それで? 村では旅商人に会えたか?」


「うん。普段よりは少ない気もしたけど、ちゃんと会って話も聞いてきた」


「少ない?」


「うん、コーゼに行くのを避けてるのかもしれない。村自体も閑散としてたよ」


「それは、戦が始まることと関係があるのか?」


「そうではないと思います。戦準備の今で有れば、あらゆる武具が売れます。それなのに、コーゼへ向かう商人が少ないというのは、避けてるとしか思えませんでした。その理由は誰も知らず、コーゼへ行けばわかるのかもしれないと、皆そう言ってました」


「何で避けるんだろう」


「他には、少し良くない噂もあったよ」


「良くないとは?」


「はい。コーゼの王の体調が芳しくないそうです」


「王の?!」


「はい。もしかしたら、もう長くはないのかもしれないと」


 王が体調を崩されているのに、戦を仕掛けようとしているのか? コーゼは、何を考えている?


「代替わりして、戦をしようとしてるのかもな」


「どういうことだ?」


「戦好きな王子なんだろ? 自分が王になって、初めての戦だ。自分の采配で兵が動く。大規模なものを仕掛けたいと思っても、おかしくない」


 自分の……そのようなことに何の価値があるのか。


「はぁ。理解ができぬ」


 私は思わず深いため息を吐いた。


「ははっ。そうだよな。俺も理解できない。でも、そういう人間がいるのも、事実なんだ」


「代替わりしてってことは、開戦はコーゼ王の逝去の後か?」


「かもな。王が亡くなって、その後を継いだと国民に発表してから、だろうな。コーゼ王が亡くなれば、さすがにカミュートでもわかる。まずはそこを気にしておかなきゃいけないはずだ」


「ステフ、他には?」


「後は特にはないよ。王の容体の話ばかりだった」


 ルーイが聞きたかったのは、姫の話だろうか。ルーイ、もう大丈夫だ。ロイドに聞いたことで十分だ。

 ロイドとの話はルーイにもなかなか言い出せずにいた。姫の無事を確認するために、コーゼに入り込むなど、無謀な話だ。それにもし、実行するのであれば私だけで向かうべきだ。二人を巻き込んではならない。


「ステフ、明日は一日休んで、明後日から訓練を再開しよう。依頼した剣を受け取った後は、場所も変える」


「はい! よろしくお願いします!」


「兎よりも大きい獣を相手にするからな」


 私が姫へ向かって行く道を選ぶのであれば、ステフには自分を、可能ならば自分とルーイを守る力を与えておかねばなるまい。大規模な戦が始まるとわかっているこの国へ、二人を残して行くしかない。

 私が側にいて、守ることができればいいのだが、そうすれば姫の無事を確認することはできぬだろう。

 コーゼへ、姫の元へ向かうと言えば、二人は何と言うであろうか。無事を確認するだけになるかもしれぬ。何もできずに帰ることになるかもしれぬ。そもそも私の心配は無駄になるかもしれぬ。

 何ができるかわからぬままでも、姫の元へと行きたい自分と、側で二人を守りたい自分が、私の中でせめぎ合っていた。

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