第33話 心地よい時間

「こっちでも、城から剣の依頼がきてるって言ってたよな」


「うん。この街だけじゃない。カミュート全体で剣や盾を作らせてるみたい」


「大きな戦になるということか」


「はい。これまでになかった規模になると思います。コーゼは本気でカミュートを手に入れようとしていると」


「シャーノは? どう動くって?」


「今のところ、シャーノは動かないのではないかって。まだ、王子が小さいから。しばらく静観を貫くかもしれない」


 今のシャーノの武力を思えば、静観は正しい選択であろう。カミュートとは友好関係を築いているし、コーゼにかかっていったところで、返り討ちにあいかねない。


「コーゼには、シャーノの姫が嫁いでるんだ」


「そうなの?!……いや、だから、コーゼはシャーノには攻め入らないんだ」


「シャーノが静観しててくれるなら、カミュートとしてはありがたいってことだな」


「うん。王女様がコーゼにいるのなら、そっちに肩入れしてもおかしくない」


「この街で、ひと月もの間剣の仕上がりを待っていられるだろうか」


「それは僕も気になりました。ただ、ここはこれから暑くなります。コーゼが仕掛けてくるのであれば、涼しくなってからだというのが、旅商人達の読みです」


「暑さを避けるというのか?」


「カミュートはシャーノよりも暑くなりますから」


 気温か……涼しい方が戦いやすいのは間違いないが、カミュートはそれほど暑いのだろうか。


「アイシュタルトはカミュートの暑さを知りませんから。かなりきついので、覚悟していて下さいね」


「涼しくなってからなら、剣も手に入れた後だな」


「うん。待っていられると思うんだ」


「それならば、このままひと月様子を見よう」


「俺はそれで良いと思う」


「また、頃合いを見て、旅商人達には話を聞きに行きますよ」


 コーゼの様子に気を配らねばならぬのは間違いないが、旅商人達の情報は非常に有意義なものであった。

 国同士を行き来する彼らの情報網は、時に城のものを超える。

 定住地のない彼らの場合、自分の命は自分で守るものであり、どこの国も守ってはくれない。それ故に情報が自分を守る鎧となるのであろう。


「ステフ、明日から剣の訓練を始めようと思う。」


「はい! お願いします!」


「街を出て、仕留めるのが簡単な獣が出る場所はあるだろうか」


「門を出て、サポナとは反対側に、小さい森がある。そこなら、兎や狐ぐらいの獣しか出ないよ」


「そしたら、そこへ行ってみる。買った剣は、多少使いづらさがあったとしても、あの重たいものよりは良いだろう」

 

 ステフは立ち上がり、買った剣を腰に下げる。仕立てた剣ができるまでの間とはいえ、悪くない代物だ。


「ステフ、しっかり教えてもらってこいよ。騎士様に訓練してもらうことなんて、二度とないぞ」


「わかってるよ! 兄さんこそ、明日以降何やるか決めたの?」


「俺は、ちょっと……な。お前らは訓練してたら、情報も集められないだろ? その分俺がそっちは受け持つよ」


「ルーイ。任せた」


「旅商人は相手できないから、ステフに任せたい」


「もちろん! 任せてよ。それぐらい、役に立つよ!」


 ステフの言葉に私とルーイは顔を見合わせて笑う。

 コーゼの動き次第では大きく国が変わるだろう。このように笑って話せる日々がいつまで続くかはわからない。


 私はいつかこの国を守るために戦いに出るであろう。傭兵として生きる。元よりそのつもりであった。いつの間にか、この時間を心地よく感じて、少しでもこの空間に腰を据えていたいと、そう思っていた。

 今はただ、一日でも長く、この時間を積み重ねていられることを願う。

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