第21話 再会

「それにしても、あのようなことを、一体誰が……」


 村の入り口であっただろう門の一部をくぐり、私たちはもう一度街へ戻ろうと歩き出す。


「うーん。まぁ、いいんじゃね? 綺麗に使っててくれるなら、それはそれで。俺が使うよりも良いよ」


「気にならないのか?」


「なるよ。なるけど、あそこはもう俺の帰る場所じゃない。俺はここから逃げ出して、今日まで戻れなかったんだ。自分の身が可愛くて、危ないことが待ってるかもしれないからって逃げた」


「それは……」


「うん。仕方ないことかもしれない。でも、今あの家に出入りしてるやつは、危ない目に遭ってでも、あの家を使ってるのかもしれない。それなら、そいつに譲るよ」


「ルーイが、それで良いのなら」


「あぁ。戻ろうぜ。情報、集めないとな」


 村を出て、まだそれほど進む前に、誰かがこちらへ走ってくるのが見えた。


「犬だ!」


 走ってきた人物が、私たちにそう声をかける。走ってきた者は真っ直ぐにサポナ村へと飛び込んで行った。


「犬?」


「あ、あれだ」


 一頭の犬がこちらへ向かって走ってくるのが見える。先程の人物、何をしたんだ?


「ルーイ……は逃げたか」


 隠れるように声をかけると、既にルーイの姿はない。わかってはいたが、相変わらず早い。ククッ。私は喉の奥で笑いを堪えると、犬を前に剣を構える。大した相手ではなさそうだ。

 勢いよく走ってきた犬は私の前で速度を落とす。私としばらく睨み合っていた犬は、そのうちに後ろを向いて駆けて行った。逃げてくれたか。不必要に殺したくもない。それで良い。


「終わった?」


 いつもと同じように、どこからともなくルーイが顔を出す。


「あぁ。逃げていった」


「さっきのやつは……村の中だよな?」


「真っ直ぐ走って行った。中を知っているのかもしれない」


「まさか」


 ルーイの生家に住んでいる本人かもしれない。街に戻る時間が多少遅くなったとしても、ここは確認せずにはいられない。


「行くぞ」


「えー? 行くの?」


「行かないつもりか? あの者が、ルーイの生家に住んでる張本人かもしれない」


「そうかもしれないけどさ。会いたくないなぁ」

 

 珍しく躊躇うルーイを残して、私は再びサポナ村の中へと足を踏み入れる。


「ちょっ、置いていくなって」


 ルーイが私の後を追いかけてくるのがわかる。後ろの足音を意識しつつ、私は周囲を見渡しながら先へ進んでいく。

 ありがたいことに、壊された建物は人が隠れることもままならない。人気のない建物が立ち並ぶ道をどんどん進んでいく。目指すのはルーイの生家だ。

 念のためにといくつかの建物は中まで確認をしながら進んできた。そして先程までと同じように、他の建物に比べて明らかに綺麗な状態で佇む生家を目の前にする。

 先程とどこも変わりはない気がする。もしかしたらあの人物は村を通り道に使っただけかもしれない。それならば、それで構わない。ただ、確認せずにはいられない。これは騎士の性か、それとも私の興味か。


「開けるぞ」


「うーん。誰もいねぇと思うよ」


「それならすぐに帰れば良い」


「……わかったよ」


 一応ルーイの了承を得て、私は先程のように剣を構え、少し大袈裟に扉を開けた。そして、中に足を踏み入れる。

 ブンッ! 私が一歩足を踏み入れた瞬間だった。頭の上から、何かが振り下ろされた。咄嗟に構えていた剣で振り下ろされたものをなぎ払う。

 そして、私に危害を加えようとした人物の首元へ剣を当てがい、その人物の顔を確かめた。


「其方!」

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