第20話 サポナ村

 ザクッ。道を踏みしめる足音が変わったのがわかった。地面に何か別のものが混じっているらしい。


「アイシュタルト。ここだ。ここが、サポナ村」


 ルーイの言葉に地面に向けていた顔を上げて、周りを見渡す。崩壊した建物が目の前に広がる。扉が壊されただけの建物はまだ良い方だ。壁が粉々に砕かれたのだろう、破片が建物の周りに散らばった状態のものもある。


「ひでぇだろ? 俺が逃げた時はここまでじゃなかった」


 村人を追い立てて、財の強奪が行われたか。攻め込んだ相手が、空になった村を見れば、当然の行動だ。責めたくもなるが、仕方のない行為だ。守れなければ、国中で行われる。


「俺の家…もう少し奥なんだ」


 私が何を考えてるのかはルーイにはわかっているのだろう。私の言葉を待たずに、村の奥の方へ足を運んでいく。

 ザクッ。ザクッ。砂地の地面に、建物であったものの破片が混じっているのか。私たちの足音だけが、静かな村の中に不気味に響く。


「ここだよ」


 ルーイが案内をしてくれた家は、他の場所に比べて良い状態を保っていた。


「綺麗……なのではないか?」


「うん。俺も驚いてる。手付かずみたいだ。貧乏過ぎて、何もないように見えたのかな。それとも、家が小さすぎて、見落とされたかな」


 ははっ。ルーイが空笑いを混じえてそう話す。冗談でも言わなければ、この状態は不自然でしかない。周りにある建物はほぼ全てが何かの被害を受けていた。

 ルーイの生家だけが、扉も窓も無事な状態を保っている。見落とされた? そんなはずはない。歩いてくる途中に、小さな家はいくつも見た。それらも全て、見事に破壊されていた。本当に一つ残らず。

 何故だ? 何故、ルーイの生家だけ。可能性はたった一つ。誰かが直したのだ。それしか、考えられない。


「ルーイ」


「うん。わかってる」


 ルーイも私と同じことを考えていたようだ。誰が?気になるのはそれだけだ。


「入ってみよう」


「うん」


 ルーイが頷くと、生家に近寄っていく。


「ルーイ! 私が先だ」


 何が出てくるかわからない。もちろん、ルーイの生家を血で汚すつもりはないが、出てくるものによっては、倒さなければならないだろう。


「でも……」


「何かあれば、守ると言っただろう?任せておけ」


 改めて剣を構え直し、私は扉に手をかけた。

 バタン! 威嚇も込めて、少し乱暴に扉を開ける。一歩中に入って室内を見渡すが、何かがいる気配はない。


「誰も、いないな」


 私が中に入るまでは身を隠していたはずのルーイが、後ろから声をかけてくる。相変わらず隠れるのが上手いな。


「あぁ。綺麗ではあるが、誰かが住んでるわけではないようだ」


 誰もいないどころか、人が生活している気配もない。それならば、何故これほどまでに手入れされているのだろう。今すぐにでも生活できそうだ。


「俺が住んでた頃より綺麗かもしれない」


「ククッ。そのようなこと、あるわけないだろう?」


「いや。あるんだって。男二人の兄弟だぜ。暴れ回って、そこら中傷だらけ。何もかも出したままで、片付けなって母親に怒られて。懐かしいな」


 ルーイは思い出話が眩しそうに、一点を見つめて目を細める。ここで暮らしていたルーイが懐かしさを感じるほどなのか。


「アイシュタルト。ありがとな」


「ん? どうした?」


「いや、アイシュタルトと一緒じゃなかったら、俺ここまで来なかっただろうから。ありがとう」


「いつも、案内してもらっているからな。その礼だ。大したことではない」


 私がルーイにしてもらっていることを思えば、これぐらいのこと、何のこともない。それぐらいの恩を感じている。


「街へ戻ろう。ゆっくりもできなくて悪いけど、この辺に泊まれる場所、ないんだ」


「あぁ。ルーイがよければ、戻ろう」


 私たちはルーイの生家を出て、元来た道を戻ることにした。

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