第34話 片鱗②

「少し、感情的だね」


 議論の内容に対して、見当違いな言葉に理解が追いつかないのか、こちらを見つめたまま言葉を失っている。


 先ほどから議論の内容は、俺を連れて行くか置いて行くかで意見が割れていた。


 その議論の中で、普段から感情を読み取れないオスカーから、感情的とも取れるほど、自分の意見を通そうとする意志が垣間見えた。


 「そうね、私も聞いたわよ」


 沈黙するオスカーに、追い打ちをかけるようにアメリアは言葉続ける。


 「あなた、感情を失ったのでしょう?」


 「………僕は、……」


 自分でも信じられないのか、うわ言のように呟きながら目線を泳がせている。


 これも困惑の感情が浮き出ているのだろうか?


 「オスカー、私はね……」


 未だに困惑しているであろうオスカーに、アメリアは優しく語りかける。


 「私は…あなたには、他人が必要だと思うの」


 「他人が…?」


 「あなた…あの日から、ずっと一人なのでしょう?」


 理解できない。というような反応のオスカーに、アメリアの言葉が浴びせられる。


 「一人のままじゃ、時間が止まったようなものよ。失ったものは、失ったまま戻ってこないわ」


 アメリアの声は、懇願するような、必死さを帯びた声色に変わっていく。


 「ルカと出会ってから、あなたの中に、何か変化があったはずよ。今だって、ルカに言われるまで、自分でも気づいていなかった変化が」


 「…感情…か?」


 「そうよ、取り戻し始めてる。いえ、思い出しているのよ、あなたが、自分を守る為に失くした感情を」


 アメリアは今、望んでいるんだ。感情を失くしたオスカーが、感情を取り戻す事を。


 「私は、あなたの笑顔が大好きよ。…だから、あなたに戻って欲しい。優しく微笑む、あの日のあなたに」


 「君は、……僕をどこまで知っているんだ?」


 「真実はほとんど知らないでしょうね。だけど、私はあなたに助けられたわ。だから、その借りを返したいわ」


 「⁉」


 驚いたように、視線をアメリアに向けたオスカーは、呆れたような声色で言葉を返した。


 「デイビットみたいな事を言うんだね」


 「あなた達に助けられた時、デイビットが言っていた事だもの」


 いつの間にか、コロニーを探すかとか、俺を置いて行くとかの議論から打って変わって、二人の間にか温かい空気感が漂い始めた。


 どことなく疎外感が感じられるけど、いい感じに話しがまとまりそうだ。だけど、微妙に納得がいかない、どことなく感じる疎外感が気に入らない。


 俺だけが、過去についてほとんど知らない。


 もしかしたら今なのかもしれない。


 聞きたかったこと。


 知りたいこと。


 それを聞けるチャンスなのかもしれない。


 「二人共」


 思い出話をするように『デイビット』という人の話しで通じ合った二人に、俺はたまらず声をかけた。


 疑問符を浮かべるような顔でこちらを向くアメリアと、無表情のオスカーに、未だに意見を出していない俺からも提案を持ち掛けた。


 「俺もさ、オスカーに助けられたから、恩返しをしたいと思うんだけど」


 これは本音だ。助けられた事や、面倒をみてくれた事には感謝している。


 「俺、何をしてあげられるか分からないんだ。だから、……オスカーの事を、もっと知りたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終末暦を歩む 木林児 @kirinmori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ