第29話 無意識の内に②

 機能を新たに身につける。そして、不要な機能を排除する。どちらも普通の人間にはない機能だ。それはどんな感覚なんだろうか?


 「そういえば、オスカーは空腹の機能を自分で失くしていたけど、あれはどういう感覚なの?」


 空腹で倒れた時、なにか集中するように目を閉じた後、自分の力で起き上がっていた。俺には分からないけど、同じ進人種サクリファイスのアメリアなら分かるだろうと思い聞いてみた。


 「分かりやすく言うと、大きな部屋に沢山の入れ物があって、入れ物から出した物は認識できる。でも、入れ物の中に入っている物は認識できない。今回の場合、空腹の機能が入れ物から出ていて、それを入れ物に戻した…って感じかしら?」


 なんとなくわかった気がする。


 「つまり、認識している間はその機能が備わっているってこと?」


 「そうね。今回は無意識だったけれど、必要と感じたら入れ物から出せばいいって事よ」


 「どんな機能も身につけられるの?」


 「何でもできる訳じゃないわ。環境に適応できるように変化するだけ。体から食べ物を出すのじゃなく、食事の必要が無くなるようにするって感じにね」


 その説明で、進人種特有の機能は大体理解できた。だけど。


 「感情を失くすってこと、出来るの?」


 (僕は、感情を失くしてしまったみたいなんだ)


 オスカーが言っていたこと。これも、進人種だから出来ることなのだろうか?


 「…オスカーの事ね」


 オスカーのことは話していない。それでも、事情を知っているであろうアメリアは、俺の言葉を聞いて、質問の意図を理解したようだ。


 「自分で言ってた。感情を失くしたって」


 「やっぱりそうなのね…。自分で言っていたなら事実よ。それに、無意識の内に、その必要があると判断したのだと思うわ」


 以前、(本人が話したがらない事を、勝手に話すのは良くないわ)そう言って話してくれなかったけど、今回はオスカー本人から聞いたことなので、少しだけ教えてくれた。


 「何があったか、アメリアは知っているんだよね?」


 「確信は無かったわ。だけど、確信に変わったわ」


 「聞いたら、教えてくれるかな?」


 「それは…」


 目を逸らしながら、考え込むように言葉が薄れていく。


 「彼自身が決める事だけれど、私としては、あなたにも知っていて欲しいと思うわ」

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