第26話 再び地上へ

 散歩がしたい。そんな吞気な提案を受け入れてから、地上に向かおうとした時、一つ問題がおきた。


 「どうやって地上に出るの?」


 エレベーターの扉の前で、上を眺める二人に俺は問いかけた。


 「壊れてたのね」


 扉の下の部分から少しだけ姿を見せている、人を乗せて運ぶ部屋を見ながら、アメリアは、納得したように呟いた。


 下りる時は、オスカーに担がれて、そのまま落下してきたけど。これを登るというのは、同じようにはいかない。


 「アメリアは、この高さを跳べるかい?」


 跳ぶ?何を言っている?上を眺めたまま、オスカーは俺の理解が出来ないことを言っている。


 「そうねぇ・・・壁を蹴っていけば、私でも行けると思うわ」


 壁を蹴る?進人種サクリファイスたちは、何の話しをしているんだ?


 「それじゃあ・・・」


 アメリアに近づきながら、途中から耳元で話している。


 「わかったわ。上で待っていればいいのね」


 話し終わるとアメリアは、エレベーターの中でジャンプをした。正しくは、壁に向かって飛び上がり、そのまま壁を蹴って、何度も跳躍を続けていた。


 壁から壁へとジグザグに移動しながらどんどん上に登っていく。


 壁を蹴っていけばって、そういうことね。進人種の身体能力スゲー。


 「着いたわよぉ」


 上にたどり着いたアメリアは、下にいる俺たちを見下ろしながら報せてくれた。


 俺はあんなことできないけど、どうすればいいんだろう?


 「ルカ、飛ばすよ」


 飛ばす?


 オスカーは、俺の方を向いて、またもや理解できないことを言っている。


 「何を言って・・・って・・うわぁ⁉」


 突然、俺をお姫様抱っこのように抱き上げて、上のアメリアに指示を出す。


 「いくぞ、アメリア」


 「任せてちょうだい」


 抱き上げた俺を、少し下げてから、俺を支える腕に力がこもるのが伝わってきた。


 その瞬間に理解した。これから起こることと、オスカーが学習しないということに。


 俺の理解が追いついた直後、俺を抱き上げたていたオスカーは、俺を上に放り投げた。


 「っ⁉」


 空中で上に向かって移動している最中、もはやどうすることもできないので、身体を丸めて、落下に備えた。だけど、勢いが落ちた後、来るであろう落下の感覚は訪れなかった。


 「はいっ・・・キャッチー」


 上にいたアメリアが、俺を受け止めてくれていた。


 さっき耳元で話していたのは、これのためか。


 「楽しかったかしら?」


 俺を抱えたまま、笑顔で問いかけてくる。


 「楽しくない」


 少し不機嫌に答えると、苦笑いしながら俺を下ろしてくれた。胸が当たってたからアメリアは許す。


 その後、オスカーも下からジャンプで上がってきた。


 「ルカ、楽しかったかい?」


 「楽しくない」


 今日で3回目の問いに、俺は正直に答えた。

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