第3章

第24話 情報交換

 感情を失くした。


 確かに、衝撃的な発言だと思う。だけど、不思議と驚きはしなかった。


 なんとなくだけど、オスカーから感情の起伏らしい振る舞いを見たことがないからだ。


 人の行動は、感情を元にしていると思う。


 俺が、地上に出たのも、退屈や、地上への期待という好奇心。それらの感情が元になっている。


 「感情がないって、どんな気分?」


 これは単純な、個人的な疑問。そして、今のオスカーを知るための手段でもある。


 「気分か・・・楽になったのかな?」


 楽になった?たぶん、オスカーの話したがらないこと。それが原因かもしれない。


 「楽って何のこと?」


 「それは・・・」


 やっぱり話さないか。


 本当に感情を失くしているのか?少なくとも、悲しそうな雰囲気があるってことは、微かに感情が残っているんじゃないか?


 「やっぱいいや」


 さすがに、言いたくないことを無理矢理に聞き出すようなことは、恩人に対してしたくはない。俺も地上に出てきた理由とか、あまり聞かれたくないし。


 気にはなる。だけど、考察するには材料が少ないし、分からないことはいくら考えても分からない。だから、今のオスカーを知っていこうと思う。


 交流を深めていけば、いつか自分から話してくれるかもしれない。


 「二人共、お待たせ」


 今後の自分の方針を固めていると、着替えにいっていたアメリアが戻ってきた。


 声の方に顔を向けると。


 「って、おおぉぉ⁉」


 着替えてきたアメリアの姿は、パツパツだった。


 下は、膝より上まで肌を晒して、ひらひらした布を腰から伸ばしていて、上は、オスカーの着ている物と変わらないデザインをしている。


 ただ、一つ違う所は、さっき言った通り、パツパツなのだ。特に胸が。


 「どう、かしら?」


 胸元に手を当てて、オスカーに感想を求めている。


 「それしかなかったから、サイズは仕方ないね」


 無表情のまま、淡々と感想と言い難い返答をするオスカー。


 アメリアは、がっかりしたような顔をしている。


 「ルカは、どう?」


 オスカーの隣にいる俺に、改めて感想を求めてくる。


 「いいんじゃない?似合ってると思うよ」


 一目見て、何を思ったかは言わずにとりあえず褒めてみた。


 「そう?ありがとう」


 俺の感想に、満足そうに微笑むアメリアは「ルカの方が、乙女心分かってるわね」といってオスカーに冷たい視線を送っている。


 当のオスカーは、無表情のまま首を傾げている。


 未だに理解していない。なんだかオスカーに勝った気分だった。


 「ところで、目覚めたばかりだから、色々聞きたいのだけれど。いいかしら?」


 冷ややかな目線を送っていたアメリアは、少し真剣な表情に変わり、冷ややかな目線を送られていたオスカーに、質問を始めた。


 「そうだね、僕も君に聞きたい事がある」


 そうだ、まだアメリアをカプセルから解放しただけだった、ここに来た目的は、それであっている。だけど、オスカーにとっては、それだけじゃないだろう。


 「そうね。まずは、私からいいかしら?」


 何も言わずに、頷いて返事をする。


 「私は、どれくらい眠っていたのかしら?」


 「いつから眠っているか分からないけど、人が居なくなった時期からすると、30年以上は経っているんじゃないかな?」


 30年。そんなにカプセルの中で眠っていたのか。


 「そう。だからこんなに、ナイスバディなのね」


 真面目な表情なのに、真剣に聞こえない。


 「でも、やっぱり施設の人達はいないのね」


 「眠る前に話は?」


 憂い顔のアメリアに、オスカーは続けて質問をする。


 「計画は失敗。それだけ聞いたわね。その前は、色々動揺していて、よく覚えてないわ」


 様子を伺うように、顔を逸らして目線だけオスカーに向けて答えている。その仕草から、今の話しが、オスカーと深く関わりがる。なんとなくそう感じた。


 「他にあるかしら?」


 「施設を移された時期は分かるかい?」


 「目を覚ましてから、施設を移されているのに気付いたわ。だから、いつからかは分からない」


 「そうか。なら、僕の聞きたい事はもうないかな」


 どうやら、期待していたような返答を得られそうにない。そう判断したのか、オスカーの質問は、俺の思っていたよりも少なかった。


 期待に応えられず落胆しているのか、アメリアは、少し表情が暗い。


 「最後に一つ、聞いていいかしら?」


 暗い表情のまま、オスカーに問いかける。


 これもまた無表情のまま、質問を促す。


 「部隊の人達はもう、あなたしか残っていないの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る