第21話 知っている事(another)

 少しづつ意識が覚醒していく。


 目覚めようとしているのか、目の前は真っ暗だ。まだ意識があるだけで目を開いていない。


 眠る前はいつだったかしら?確か、眠らされたのだったかしら?


 長い間眠っていたせいか、記憶が少し曖昧だ。


 身体はまだ力が入らない。これが金縛りの正体だと言われていたのかしら?


 とりあえず、思いつく事を考えながら身体の覚醒を待ってみる。


 記憶が思い起こされていく。そうだ、私は進人種サクリファイスになったんだわ。


 14歳の時、終末暦の最中、適正があると判断されて施設で進人種の施術を受けた。


 最初は少し嬉しかった。あの時、助けてくれた人達と同じ、進人種になれる事が。


 だけど、施設の研究者曰く、役割が違うので、全く同じという訳ではないようだ。


 それでも、皆の為に戦って、助けてくれたヒーロー達の手伝いが出来る。そう思えば悪い気はしない。


 過去を振り返りながら、少しづつ身体の感覚が鮮明になっていく。


 瞼を開いて、長い眠りから覚めた、最初の景色が目に移り込んでくる。


 「お目覚めだね」


 優しい声色。だけど、無表情のままの男が、目の前に立っている。


 この人が目覚めさせたのかしら?施設の関係者のようには見えないけど。


 「あなたは?」


 「僕はオスカー、君は?」


 オスカー?聞き覚えがある名前。だけど、目の前の男の人と結びつけるのは、違和感がある。


 「私は、アメリア・・・アメリア・ハーヴェイよ」


 自己紹介を終えてから気づいた。私が眠る前にいた施設と、違う所に移されているようだ。


 辺りを見回して確認すると、前にいた所よりもかなり狭いようだ。


 見回しているうちに、オスカーと名乗った男の横に、可愛らしい男の子が立っている事に気づいた。


 「あなたの名前は?」


 「俺は、ルカだよ」


 「ルカね。よろしく」


 そう名乗った少年は、少し間をおいてから何気ないことのように発言した。


 「それにしても、アメリア・ハーヴェイって長い名前だね」


 長い名前?


 その発言に少し困惑したけど、オスカーがルカにファミリーネームについて教えている。


 兄弟には見えないし、孤児を保護しているといったところかしら?


 今の世界では、親がいないというのも珍しい事じゃない。きっと幼い頃から親がいないのでしょうね。


 親代わりは年齢的に無理だけど、お姉ちゃんにならなってあげようと思っていたけど、微妙に断られたように、お姉ちゃん呼びを拒否された。


 弟とか、少し憧れてたのに。


 「それじゃあ、オスカーにもファミリーネームはあるの?」


 今まで知らなかったのなら当然の疑問ね。


 聞いて損するような事でもないし、二人のやり取りを、少し見守るように眺めてみる。この二人仲良しなのかしら?


 「親から受け継がれた訳ではないけど、フルネームは一応、オスカー・ロバーツという名前だよ」


 (オスカー・ロバーツ)


 「あなたが・・・オスカー・ロバーツ・・・」


 思わず口に出した。その名前は、確かに知っている。だけど、私の知っている人と・・・


 フルネームを聞いた途端に、少し曖昧だった眠る前の記憶が整理されていく

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