第20話 知っている事②

 「少し話しすぎかしら?」


 アメリアは、首をかしげながらひとり言を呟いている。


 その横で俺は、たった今聞かされた話しに、少し困惑している。


 (皆の為にそれをしてきたのよ)


 オスカーを殺せるか?という問いの後に聞かされた、オスカーの過去の断片。


 今持っている、オスカーの過去のヒントを繋ぎ合わせて考えても、虫食いだらけでよく分からない。


 口ぶりからして、オスカーの表情が変わらないことと、先ほどの話しは、繋がっているようだけど、納得のいくような理由がない。


 だけど、過去のオスカーを知っているアメリアは、今のオスカーの状態を見て、納得したと言っていた。


 もしかしてだけど。表情が変わらないことを抜きにして考えてみれば、大勢いたという、他の進人種サクリファイスたち、それをオスカーが殺した?その上で、地上に蔓延る試作型プロトタイプを排除して、人間たちが地上で安全に暮らせるようにすること。それが、以前言っていた終末暦を終わらせるということか?


 たぶん違うな。進人種と試作型を排除するなら、アメリアを施設から解放する必要がない。


 だめだ。結局分からない、という答えしか出せない。


 「余っていた制服を見つけたよ」


 迷宮入りする謎に頭を悩ませていると、一人だけ離れたところで施設を漁っていたオスカーが戻ってきた。


 手には、オスカーが着ているのと同じ灰色の服を持っていた。


 「じゃあ、オスカーとお揃いなのね」


 そう言いながらアメリアは、オスカーの下に笑顔で歩み寄っていく。


 「サイズが合うかは分からないけどね」


 「そうね。いつの間にか、ナイスバディになっちゃったし」


 自分の胸を撫でながら、オスカーにアピールしている。

 

 「女性用だから、おっぱいの締め付けは大丈夫だと思うよ」


 「冷静に返さないでちょうだい。後、おっぱいって言わないで」


 そんなやり取りの後、アメリアは「着替えてくる」と言って、物影に移動した。


 僅かな間だけど。オスカーと二人きりになった。


 アメリアの話しを聞いた後だと、見慣れてきたこの無表情が、オスカーの生い立ちを表しているのだろうと考えつく。


 聞いてもいいだろうか?


 「ねぇ、オスカー」


 こちらに顔を向けて「ん?」とだけ返事をする。


 この質問に答えてくれるだろうか?


 「どうしてオスカーは、いつも表情が変わらないの?」


 単純な質問だ。だけど、この答えが、今のオスカーを知るための、最も効果的なものだと思った。


 昔は笑っていた。昔のオスカーを知っているアメリアが言っていたことだ。


 昔の話しが聞けないなら、今のオスカーのことを本人に聞けば、少しは真相の片鱗を垣間見ることができるかもしれない。


 唐突な質問に困惑しているのか、僅かに沈黙が流れる。


 だけど、その沈黙もすぐに破られた。


 「僕は、感情を失くしてしまったみたいなんだ」

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