第19話 知っている事

 アメリアの着る物を探すために、荷物の入っていそうな入れ物を手当たり次第に漁る。


 見つかるのは、何かが書かれた紙や、透明な入れ物ばかりで中々見つからない。そもそもこんな所に、身に纏うような物があるのだろうか?そんなことを考えながらも、入れ物を漁る。


 ふと、アメリアを見てみると、履物を見つけたらしく、それを足に履いている最中だった。


 「一応見つけたんだ」


 履き終えたアメリアに声をかけると、「もっと可愛いのが良かったけど」なんて言っていた。見た感じオスカーの履いている物と似ている。


 「オスカーも、そんな感じの履いているよ」


 「当時の物が置き去りにされているのね」


 恐らく、この施設が稼働していた時のことを言っているのだろう。


 最近まで人が訪れた痕跡のない施設。そこに眠らされていたアメリア。たぶんアメリアも、かなり長い間ここにいたのだろう。


 いつから進人種になったのかとか、色々疑問があるけど、つい先ほどのことが気になって聞いてみた。


 「アメリアは、オスカーのこと知ってるの?」


 オスカーのフルネームを聞いた後、悲しそうな顔をしていた。


 以前から知っているような態度も含めて、それが気になる。


 「そうね、知っているわ。オスカー達は、ヒーローみたいだったから」


 オスカー達?


 (大勢いたよ)以前、オスカーはそう言っていた。その人たちのことだろうか?


 「その話し、詳しく聞かせて」


 やっぱり、アメリアは知っている。昔のオスカーについて何か知っているんだ。


 ようやく疑問が解ける。そう期待を込めた頼みは、思い通りに聞き届けてくれなかった。


 「オスカーは自分から話さないのね」


 アメリアは、少し伏し目がちにそう言った。


 確かにオスカーは、聞けば何でも教えてくれた。だけど、悲しそうな雰囲気を放つ時だけ、何か言い淀んでいるようだった。


 「本人が話したがらない事を、勝手に話すのは良くないわ」


 そう言って、俺の頭を優しく撫でながらアメリアは続ける。


 「だけど、昔の彼を見て、私が思ったことは、教えてあげる」


 やっぱり、オスカーが覚えていないだけなのか、アメリアは、オスカーに会ったことがあるようだ。


 「彼は、とても優しく笑うのよ」


 笑う?あのオスカーが?


 未だに、表情が変わる所を見せないオスカーが?


 「私も最初、あまりにも無表情だったから、気付かなかったもの。彼があのオスカーだなんて」


 だから、フルネームを聞いてから呆けた顔をしていたのか。


 「でも、少し納得もしたわ。私が聞いていた事が、事実なら」


 アメリアは、話しながら伏し目がちになっていく。


 「一つだけ、教えてあげる。オスカーが何をしてきたのか。」


 アメリアが知っている、俺の知らないオスカーの過去。その一つを言う前に、例え話をしてきた。


 「ルカは、オスカーの事、好き?」


 「好きって言われても・・・時々変なこと言ってくるし、子供扱いしてくるけど、嫌いじゃないかな?」


 俺の話しを聞いて、微笑んでから話しを続けた。


 「もしもだけど、オスカーを殺せる?」


 「出来る訳ないだろ。あんな試作型プロトタイプと戦える人」


 アメリアは「そうじゃない」と言って話しを補足する。


 「それが出来るとして、それをしなくちゃいけない時、ルカは、オスカーを殺せるかしら?」


 「そんなこと・・・」


 どちらにしろ出来る訳ない。オスカーは、試作型から助けてくれた恩人で、色々なことを教えてくれて、優しく気遣ってくれる。そんな、一緒に行動をしている仲間を、殺せる訳がない。


 沈黙を否定と捉えたのか、返答を待たずに続ける。


 「オスカーは、皆の為にそれをしてきたのよ」

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