第18話 アメリア・ハーヴェイ

 眠りから覚めた、進人種サクリファイスの女性は、「アメリア・ハーヴェイ」と名乗った。


その女性は、辺りを少し見回して俺に目線を合わせた。


 「あなたの名前は?」


 「俺は、ルカだよ」


 「ルカね。よろしく」


 そう言ってアメリア・ハーヴェイは、にっこりと微笑んだ。


 笑った。同じ進人種のオスカーは、常に表情が変わらないのに、この進人種は、俺に笑顔を向けた。


 どうやら、進人種だから表情が変わらない、という訳ではないようだ。


 「それにしても、アメリア・ハーヴェイって長い名前だね」


 ちょっとした疑問を口にだすと、アメリア・ハーヴェイは、キョトンとした顔をしてから、微笑みながら答えた。


 「ハーヴェイは、ファミリーネームよ。」


 「ファミリーネーム?」


 ファミリーネームとは、親から受け継がれていく名前で、それとは別に、生まれた時に付けられるのが、ファーストネームらしい。


 オスカー曰く、コロニーで生活する人たちは、皆が家族同然のように過ごすから、いつからかファミリーネームは使われなくなったようだ。


 「だから、私の事は、アメリアって呼んでね。それか、お姉ちゃんでもいいわよ」


 そう言ってアメリアは、妙に期待を込めた視線を俺に向けてくる。


 「分かったよ、アメリア」


 とりあえず、無難に返事をすると、アメリアは、不満げに頬を膨らませていた。


 オスカーと違って表情豊かだなぁ。


 「それじゃあ、オスカーにもファミリーネームはあるの?」


 当然の疑問だ。出会った時から、オスカーとしか聞いていないけど、コロニー生まれじゃないオスカーにも、ファミリーネームがあるはず。


 俺とアメリアから視線を向けられて、オスカーは改めて名乗る。


 「親から受け継がれた訳ではないけど、フルネームは一応、オスカー・ロバーツという名前だよ」


 ロバーツというのが、オスカーのファミリーネームらしい。


 (親から受け継がれた訳ではない)そこに疑問が残ったけど、それを聞く前に別のことに気を取られてしまった。


 「あなたが・・・オスカー・ロバーツ・・・」


 アメリアが呆けた顔で、オスカーに確認するように名前を呟いていた。


 「僕を知っているのかい?」


 オスカーは以前、この施設にいる進人種と会ったことがないと言っていた。しかし、アメリアは、オスカーのことを知っているような態度だ。


 どういう事かと疑問が残るけど、アメリアは、悲しそうな顔をして黙ってしまった。


 「とりあえず、何か着るものがないか探そうか」


 しばらく沈黙が流れた後、オスカーが提案をしてきた。


 アメリアは、未だ茶色い布を肩から羽織ったままだった。


 確かに、このままだと少し、目のやり場に困る。


 そう言うとオスカーは、施設内にある入れ物を物色しはじめた。


 その様子をアメリアは、呆けた顔で黙ったまま見つめていた。


 「大丈夫?」


 自己紹介の時と比べて、様子が変だったから思わず声をかける。すると、気を取り直したように微笑んで「大丈夫よ」と言って立ち上がった。


 「探すの手伝ってくれる?」


 そう言って、笑顔で問いかけてくるので、こちらも快く引き受ける。


 オスカーと違う場所を、アメリアと一緒に漁りながらも、先ほどの反応が頭に残る。


 オスカーのフルネームを聞いた途端に見せた態度。それは、オスカーを知っているであろう反応だった。


 新しく出会った、アメリアという進人種の女性は、オスカーについて何か知っているのだろうか。なぜ名前を聞いて悲しそうな顔になったのか。


 確信はないけど、オスカーの見せる悲しそうな雰囲気と、何か関係があるように思えた

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