第11話 目的地

 オスカーと話しをしながら地上を移動していると、試作型プロトタイプに遭遇することがある。その度にオスカーは、俺に「ここを動くな」と言って試作型と戦いに行く。


 離れたところで見ていても分かるほど、オスカーは試作型との戦いに慣れている。


 腕を変形させたまま近づいて、注意を引き付けてから一定の間合いをとって、跳躍をして襲いかかる試作型を、躱しざま変形させた爪で切り裂く。大抵の場合、これで決着がつく。


 ずっと、こんなことを繰り返してきたのだろうか?


 「僕がやるべき事」オスカーは、そう言っていた。


 終末暦を終わらせるため、一人で地上の試作型と戦い続けている。


 オスカーが、17歳で進人種サクリファイスになった後に、終末暦が始まった。そして、現在は、終末暦42年。


 40年以上も一人で戦い続けているのだろうか?


 進人種サクリファイスは、寿命が人間の10倍ほどになるらしい。おまけに、肉体の成長速度も人間の十分の一、つまり、進人種になってから、人間の成長速度に換算すると4年ほどしか、肉体的成長はしていないようだ。


 だからといって、時間の流れる感覚まで変わる訳ではないだろう。


 長い間、一人で戦い続けてまでやるべき事、なぜ伏し目がちにそう言ったのだろうか?


 無表情なのになぜか、悲しそうな雰囲気を感じた。だから俺は、そこで質問を止めてしまった。


 オスカーが進人種になったことと、何か関係がある、直感的にそう思った。それと同時に、無遠慮に踏み込んではいけないと、無意識に悟ってしまった。


 試作型との遭遇と戦闘を繰り返しながらも地上を歩き続け、休めそうな場所を見つけた。今日はそこで、睡眠をとるようだ。


 進人種は、食事だけでなく睡眠も必要なく、ただ休息をとるだけで、体力や疲労も回復するらしい。オスカー的には、全く疲労はないようだが、人間の俺に合わせて休息をとってくれるようだ。確かに、ずっと歩き続けているので疲労が溜まっている。


 「子守唄は必要かい?」


 「そんなに子供じゃない」


 時々、優しさなのか馬鹿にしてるのか、判断に困ることを口走る。無表情だから本当に分からない。


 子守唄は不要だけど、まだ少し、話しをしたい気分だった。


 「眠る前に、話しを聞いてもいい?」


 「三匹のこぶたの話しとか?」


 何それ?気になるけど今はいいや。


 「これからどこに向かうとか」


 そっちか、という感じに改めて考える素振りを見せてからオスカーは、話しを続けた。


 「目的地はあるよ、僕たちが向かっているのはそこだ」


 「そこになにがあるの?」


 「何があるというよりも、残っていれば、同行者が増えるって感じかな?」


 同行者が増える?オスカーの仲間だろうか?


 「どんな人なの?」


 「僕も、会った事はないんだ」


 知らない人なのか?でも、オスカー以外の人と会うのはちょっと楽しみかも。


 「因みに、その人も進人種だよ」


 「えっ⁉」


 オスカー以外にも進人種がいる?


 冷静に考えればそうだ。オスカーが進人種なのは、自分から言っていた。だけど、自分だけだとは言っていなかった。


 「オスカーの他にも進人種はいるの?」


 「・・・あぁ、他にも・・大勢いたよ・・・」


 大勢いた?過去形で放たれた言葉に疑問が残った。だけど、その言葉を発する時、またしても、何か後ろめたいような雰囲気を漂わせていた。


 「そう・・・なんだ」


 やはり、終末暦とオスカーが進人種であること。そして、オスカーの見せる後ろめたさの原因は、関係あるのだろう。


 だけど、質問を続けるのを止めてしまう。


 なぜだろう?感情を読み取れないはずの無表情のオスカーが、とても悲しそうに感じるのは。

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