第2章

第9話 地上の歴史

 オスカーとの同行が決まってからすぐに旅支度を始めた。


 支度といっても、地下から持ってきた食料を食べて、オスカーに貰った茶色い布を身に纏うくらいだ。


 少ない食料だけど、オスカーにも分けようと思ったら「僕に食事は必要ない」と言うので一人で食べてしまった。


 どうやら、俺に気を遣って断った訳じゃなく。本当に食事を必要としないようだ。


 理由を聞いたら、普通の人間じゃないかららしい。


 腕が変形するくらいだから、普通の人間じゃないのは、分かっているけど。素直に答えてくれるから、別に隠している訳ではないようだ。


 歩いて移動しながらも、色々質問をしたら答えてくれた。


 今いる地上が、昔はイギリスと呼ばれていた事や、色んな災害が起きた結果、環境が変化したこと、山のように積もった瓦礫が、人間の作った物が崩壊した姿だということ。


 環境は、少しづつ戻ってきているらしい。昔はもっと寒かったようだ。


 今より過酷な環境に適応するため、色んな実験や計画が行われたこと。


 それらが結果的に、失敗に終わったため、人間たちが地下に追いやられる現状に至っているということ。


 地上の獣は、実験の試作型《プロトタイプ》で、そいつらが逃げ出した挙句、繫殖を繰り返して、数が増えてしまったこと。


 知らなかったことを聞けば、素直に教えてくれる。


 そして、今、最も気になる疑問、オスカーについて聞いてみたけど。これについても、あっさりと答えてくれた。


 オスカーは、元々人間で、試作型の実験の末誕生した、進人種サクリファイスという存在らしい。


 俺でも分かりやすいように簡単な説明で教えてくれたけど。寒かったから、寒さに耐えられる身体になる。ということらしい。


 さすがに要約しすぎて理解出来なかったので、左腕の変化について聞いてみた。


 「左腕は、何であんな形になるの?」


 「戦うのに必要だったからだね、カッコイイだろ?」


 時々変なこと言ってくるけど、試作型と戦う為に腕を変形させることができるらしい。確かに見た目はカッコイイ・・・のかな?


 カッコイイかどうかはさておき、試作型と戦うのには、うってつけなのかもしれない。


 俺が初めて出会った試作型は、オスカーの体格よりも大きかった。それに、爪も牙も鋭く、口は人間の頭を吞み込めるほど大きく開かれていた。


 そんな試作型に対し、オスカーは、爪で腹を切り裂いていた。


 その一撃で、試作型は倒れて、そのまま息絶えた。


 それほどオスカーの腕は、強靭で鋭い爪であると分かる。


 「右腕も変えられるよ」


 そう言いながらオスカーは、変形させた右腕をこちらに見せてきた。しかも、無表情のまま。


 サービス精神は旺盛のようだ。無表情なので反応に困るけど。


 試作型を殺せるほどの能力を持っているので、地上で行動できるのは分かるけど。何故、地上にとどまっているのか疑問が沸いた。


 試作型と渡り合えるといっても、地上にとどまり、身を危険に晒し続ける必要はないはずだ。


 地下に身を隠して生きるのが、この世界の常識で。地上に出れば試作型の脅威に身を晒し続けることになる。その危険性は、この身をもって自覚した。


 試作型を実際に目の当たりにした瞬間は、身動きが取れないほど、身体に緊張と恐怖を刻み込んだ。


 そんな試作型がうろつく地上に、身を危険に晒してまで、とどまり続ける理由。


 その疑問の答えを求めてみた。


 「どうしてオスカーは、地下に隠れないの?」


 「僕には、やらなきゃいけない事があるからだね」


 「やらなきゃいけないこと?」


 危険に身を晒してまでやるべきこと。それは、一体なんだろうか?


 「僕はね・・・終末暦を、終わらせたいと思ってるんだ」

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