第8話 同行

 目覚めてから、興味深い男オスカーについて熟考していたが「昨日の続きをしよう」と声をかけられた。


 何のことかと少し迷ったが、眠る前に「話しは、後にしよう」と言っていたことを思い出した。


 瓦礫をどけただけの寝床に座ったままの俺の所まで、ゆっくり歩きながら近づいてくる。


 近くに転がっていた瓦礫から、手ごろな大きさの岩を運んで、そこに腰を下ろした後に、何故か謝罪の言葉を述べた。


 「どうして謝るの?」


 「ルカを襲ったのは、僕が仕留め損ねたせいだ」


 つまり、オスカーが仕留め損ねた獣が逃げ出した先で、俺が襲われたらしい。


 初めて獣を見た時、腹に傷を負っていたのは、そういうことらしい。


 雄叫びを聞いて、自分から獣の下に向かって行ったのに、謝罪をされたので罪悪感があるけど。


「結局、助けてくれたのもオスカーなんだから謝らないで」


 とりあえず自業自得なので、謝罪は不要ということにした。


 それでもオスカーは、「ありがとう」とお礼まで言ってきた。


 何だか、話すほどに、罪悪感が増していく。


 無表情ながら誠実さ溢れるオスカーの対応に、少し困惑していると、本題であろう話しを切り出してきた。


 「どこか行く当てはあるのかい?」


 思っていたことと、違うことを聞かれた。いや、正確には、想定していた質問を、飛ばして聞いてきた。


 (どうして地上にいたのか)、それが想定していた質問だ。しかし、オスカーは、それを聞かずに、別の質問を投げかけてきた。


 「地上にいた理由は、聞かないの?」


 実際に聞かれれば返答は、追い出されたと、嘘をつくつもりだった。でないともとの地下に戻されると思ったからだ。だけど、聞かれないというのも、その理由が気になってしまい、逆に質問を返してしまった。


 オスカー曰く「地上にいるのは、コロニーが襲われたから、地上に逃げてきたという事だろう?」ということらしい。


 因みに『コロニー』とは、地下に住む人間達の、居住区を意味する言葉のようだ。


 コロニーが襲われた時のことを思い出させることになるので、敢えて聞かなかったというオスカーの気遣いだった。


 追い出されたと噓をつくと、また罪悪感が増していきそうなので、別の意味で気遣いに甘えることにした。


 ひとまず最初の質問に対して「当ては、ない」とだけ答えておいた。


 オスカーは「そうか」とだけ言って黙り込んでしまった。


 表情が変わらないので感情が読み取れないけど、考えごとをしているように感じた。だから、敢えてこちらから提案してみた。


 「もし、良かったら、オスカーと一緒にいてもいい?」


 ちょっとした賭けだった。賭けといっても、断られた時のリスクがある訳ではない。むしろ承諾されれば俺にとってのメリットしかない。


 たぶんオスカーは、地上で暮らしている。


 地下に住んでいるなら、そこに連れていって休ませるはず。だけどオスカーは、地上で俺を寝かせていた、きっと普段から地上にいるからだろう。


 それに、きっと獣からも守ってくれる、そうすれば安全に地上を見て回れる。


 そして何よりも、オスカーという興味深い男のことを、近くで見ていられる。


 昨日、出会ったばかりのこの男に、俺は興味津々なのだ。


 俺の提案に対してオスカーは、視線を俺から見て左下に移したまま黙り込んでいたけど、しばらくして目線を俺に向けて言葉を返した。


 「その方がいいかもしれないね」


 表情を変えないまま承諾してくれた。


 喜びを表現したい気分だったけど、危険な目に合うリスクのある、これからの生活にそぐわない行為をすれば、不審に思われそうなので控えておいた。


 とりあえず「これからよろしく」と挨拶を交わした後に、「子育ての経験がないけど、大丈夫かな?」なんてひとり言を言っていたけど聞かなかったことにしておこう。


 こうして俺は、地上で出会ったオスカーという興味深い男と共に、地上の冒険を続けることになった。

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