第7話 興味深い
目が覚める。快適とは言い難い寝床のせいか、少し背中が痛むけど、睡眠のおかげで身体の疲労は抜けている。
上半身を起こして、腕をあげ背中を伸ばす。
やっぱり背中が痛い。
「お目覚めかい?」
目覚めてからの日課のような動作を行っていると、声をかけられた。
襲いかかる獣から助けてくれた、オスカーの声だ。
「うん、おはよう」
目覚めの挨拶をすると、「おはよう」と優しい声で返してくる。
眠る前にも思っていたことだけど、声色や所作からは、優しさや気遣いが感じられる。にも関わらず、その表情は常に変わらない。
感情が読み取れない。だけど、声や所作のおかげか、警戒心が芽生えてこない。
「そうだ。これ、ありがとう」
眠っている間に、身体にかけられていた茶色い布を返しながら、お礼を言う。
すると、「地上は寒いから、そのまま羽織っているといい」と言って返却を拒まれた。
気遣いからそう言っているのだろうけど。やっぱり、表情が変わらないから違和感を感じる。
普通なら、楽しい時には笑顔、怒る時や身体に力を入れる時には、顔をしかめる。感情や行動によってそれが表情に表れるからだ。
ただ無愛想なだけ。と言ってしまえばそれまでだけど、そうとも思えない。
獣から助けてくれた時、涙を流している俺の頭を撫でる時の所作には、優しさが感じられた。
そんな行いをする者を、無愛想と呼ぶのは腑に落ちない。
ただ表情が変わらないというだけで、考え込んでしまうけど。あの左腕についても考えてしまう。
人間のものとは異なる姿に変化する左腕。
昨日、目の前で見せてもらったけど、全く原理がわからなかった。それを当然のように行い、当然のように元の人間の腕に戻していた。
本人は、「必要な時に変えられるだけ」と言っていたけど。普通はそんなことできない。こっそり自分の左腕を凝視しながら、「変われ」と念じてみたけど、もちろん変わらなかった。
おまけに、オスカーとは、地上で出会ったということが拍車をかけるように、好奇心を煽る。
新しい世界で、未知のものを探して地上に出てきた俺にとって、初めて見るものは、好奇心を満たすのに充分なものだった。しかし、その中でもオスカーという男は、とりわけ俺の興味を引いていた。
俺は、オスカーのことを知りたい。
常に無表情で、当然のように身体を変化させて、獣から助けてくれた、地上で初めて出会ったオスカーという男は、非常に、興味深い。
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