第2話 地上

 地上に出る計画は、すごく簡単だ。


 いつも通り目覚めて、作物の世話、見回りをして飯を食った後の自由時間に地上へ出る。


 何も難しいことはない、みんないつも通りの行動しかしないからだ。


 何かみんなの注意を引いてから、隙を伺って抜け出す、なんてことも必要ない、自由時間になったら地上への冒険の開始だ。


 地上に出た時のための食料として作物も少し多めに採っておいた。


 明日から、1人分の食事の消費量がなくなるんだ、これくらいは勘弁してくれるよな。


 食料を巾着袋に詰めて準備完了、もともと毎日同じことを繰り返すだけの住みかだから、地上に持っていって役に立つような物は置いていない。


 そうして自由時間、自由といっても地下の中でそれぞれ過ごすだけだ、誰が何してても気にしない、大体の人はそのまま眠ってるか、住みかの掃除をしている、それだけこの地下には何もない。


 「よしっ、冒険に出発だ」


 茶色い土に覆われた、進むほど暗く、細くなっていく道を歩いていくと、小さな光る穴を見つけた。


 「ほんとに外に繋がってたんだ」


 物心ついた頃、この先は外に繋がっているから近づかない方がいい、と教えられたことがあったけど、実際に見てみるまで確信はなかった。


 「あまり掘りすぎるのは、良くないよな?」


 地上への出口は、頭が入るくらいにしか開いていなかったから、なんとか自分が通れるくらいにまで穴を広げてみた、土が自然に積み重なってできた壁だからか、思ったより簡単に穴掘りは終わった


 広げた穴に頭を突っ込み、潜るように穴を通る。


 この先に待つ地上という冒険の舞台に思いを馳せながら。


 穴を抜けた先は、まだ土に覆われたままだった、しかし土に覆われた穴の先には、先ほど潜った穴よりもかなり大きな穴に続いていた。


 「きっと、あの先が地上だ」


 退屈な日々を繰り返す地下。


 同じことを繰り返し、死ぬまで生きるだけの毎日。


 そんな地下と生活に別れをつげ、地上への出口、いや、新しい世界への入口に向かって、少しづつ歩いていく。


 見たことない景色、触れたことがない物、聞いたことがない物、嗅いだことがない物、地下にいたままでは体験出来ないこと。


 それらのすべてが待っているであろう地上に、今まで感じことがないほどの興奮を抑えながら。


 土に覆われた穴をくぐり抜け、遂に俺は地上にたどり着いた。


 新しい世界、念願の地上、そこに広がる景色は。


 灰色の空、見渡す限りの茶色い大地、地下の作物よりも色の薄い散りばめられた植物。


 ただそれらが、そこにあるだけだった


 「なんにもないじゃん⁉」


 新しい世界での第一声がそれだった。


 


 

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