薬師丸明照の場合

 8人のスター解散前から勉学に取り組んでいた薬師丸は翌年京都の大学に合格し、その大学の教育学部に入学した。

 大学合格を機に、薬師丸は両親と和解。

 大学近くでアパートを借り、両親からの仕送りと飲食店のアルバイトの給料で生活し、大学の授業に励んでいた。


 2年後、薬師丸は1週間教育実習で京都府内の中学校へ行った。

 薬師丸は社会科を担当し、生徒たちと仲良くした。生徒達から「ヤックン」と呼ばれ、教育実習最終日、生徒達は泣いて薬師丸を見送ったのだ。


 教育実習から数日が経ち、ゼミの教授本宮と面談をした。

「教育実習はどうだった?」

 本宮が聞くと

「勉強になりました。しかし…」

 薬師丸は俯いた。

「どうしたんだい?」

 本宮が心配そうに聞いた。

「自分って碌でもないなーって」

 薬師丸は自虐した。

 薬師丸が教育実習の間、学校内で虐めが多発し、生徒の悩みに親身に聞いたが、残念な事に改善が見られず、自己嫌悪になってしまった。この事を本宮に話すと

「別に君は悪くない」

「それだけじゃないですよ。自分は昔からダメで」

「少年院にいたんでしょ?でも更生できたじゃん」

「自分の力だけで乗り越えた訳じゃないですし…」

「それはどういう訳かな?」

 本宮からそう聞かれ、薬師丸は思い切って話した。

「本宮先生、8人のスターをご存知ですか?」

「8人のスターってドラマとアニメの題材にもなったメンバー全員昭和の有名人の名前で犯罪組織を解体させたあの8人のスターだよね?」

「はい」

「石原裕次郎に三船敏郎、美空ひばり、勝新太郎、坂本九、林家三平、三波伸介、夏目雅子だったね。確か、三波伸介と夏目雅子はその時まだ10代の子だったなー…」

「自分がその8人のスターの三波伸介です!」

 薬師丸からカミングアウトされ、本宮は驚いた。だが、今まで薬師丸と関わって他の学生と違う点があった。

「そうだったんだ。だからか…」

「いや、ゼミの発表とかで他のゼミ生と違う意見や見方があったからね」

「先生…」

「でも8人のスターだったのはびっくりだ。まさかゼミ生に8人のスターがいるなんて」

 本宮はそう微笑んだ。


 これをきっかけに薬師丸は卒業まで自信を持って過ごすのだった。

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