第20話 牢獄からの脱出

「一つ目の鍵は針金でもあれば開けられるが、もう一つのカギは密閉されていてる。無線か、磁気で操作するんだな。」

トラネコさんの話によると…つまり、開けられないとのことです。


みんな気合いを入れて立ち上がったものの(アリと戦っているkeiさんを除き)、困り顔です。

今度ばかりは、さめが外に出てなんとかなるものでは無いみたいです。

「外側から開けてもらうしかないな。」

「おトイレに行きたくなっちゃうとか、叫んでみるのは?」

keiさんもやっと戦列に加わりましたが...

なんとも古い手です。

「ここには立派なトイレも洗面もあります。」

とりあえず、いっしょにkeiさんも頭を悩ませているようです。

「明日、取り調べの時だな。たぶん、また私から取り調べが始まり、イリアさんが最後だな。その間にすきを見て...」

おやっさんも今一つ、良いアイデアが浮かばないようです。

「スキを見るといっても、ここの警備に、少なくとも十数人の兵隊がいるぞ!」

トラネコさんもため息をついてます。

「お腹空いた!」

keiさんはお腹が空いてます。

「兵士を買収しようにも、さっきの話だと神がかっていやがるし、乗ってこないだろうな。」

さすが商人、買収とは考えることが違います。

もし普通の兵士だったら、いく位で買収されるんでしょう?

イリーさんが何か考えたようで手を上げました。

「取り調べの時とか、鍵が開いた瞬間にみんなで大暴れするとかどうですか?」

イリーさんらしい意見です。

「それしかないような気がします。」

さめも考えました。たしかにそれも手です。

「おい、ランメル!ゲリラは助けに来ないのか?」

「ゲリラじゃない!私が朝までに戻るか、連絡を入れなければ、ザメハラの部下たちが行動を起こすと思うが...」

部下さん達とザメハラの自警団の戦闘は避けたいものです。

「それを待つ手もあるな。しかし、時間がかかれば、姫の素性がばれてしまうしな。」

時間に猶予は無いということですね。

「素性がバレれば、イリーさん人質決定です。」

さめはイヤな想像をしてしまいました。

人質はやっぱりいちばんに困ります。

「ねぇ、お腹空かないの?お腹空いた!」

トラネコさんにおやっさんは困り顔、そんな場合じゃないんですが...

「keiさん、ごめんなさい。こんなことになって。」

イリーさんにも気を使わせて。

「あっイリーのせいじゃないの。意地悪さんたちがいけないの、囚人の食事をとる権利はどうなってるんですかー!」

トラネコさんが指折り時間を数えてます。

「こいつらにつかまったのがたぶん19時ごろだろ。警察支所に連れていかれてランメルとおれが尋問されて21時、それからここに移送されて23時、もう0時だもんな。腹も減るよ。」

keiさんが鉄格子をつかんで叫び始めました。

「お腹空いたー!」

トラネコさんも立ち上がり、鉄格子をつかみます。

「おれも空腹で腹が立ってきた!俺も腹が減ったぞー!」

「私もお腹空いたー!」

イリーさんまで(^^ゞ

おやっさんだけは笑ってみています。

さめも叫んじゃおうかな!



「ねぇねぇ、囚人が牢獄で叫んでるわよ。」

外から女性の声が聞こえてきました。

「ほらぁ、うるさいからお仕置きしなくちゃ!」

声の主の女性は酔っぱらって、誰かに甘えているような声です。

「自警団って警察なんでしょ、うるさい人たち拷問してよ。」

この村には酒場でもあるのでしょうか?ときどきバカ騒ぎをする声が聞こえてきます。

すりガラスの向こうに人影が見てきました。

「どんな悪者がとらえられてるの、開けて開けて、囚人みたい!」

すりガラスの向こうに、もう一人の人影が見えてきました。

「見るだけだぞ、拷問とかしないぞ!」

「鉄格子に入ってるんでしょ。そういうのテレビでしか見たことない。」

留置所の扉が開きました。

そして、男と女が入ってきます。

男の人は初めて見る顔です。

「机もあるし、拷問じゃなくていいから取り調べして!」

「何を取り調べるんだよ。」

「わからないけど...」

なんと、女性はチャイナドレスです。

なんでチャイナドレス?たぶん、みんなそう考えたと思います。

「見学しただろ、もう行くぞ!」

男の人がドアの方に振り向きました。

「ねぇねぇ、お腹空いたってば―!」

もちろん、keiさんです。

「ほら、囚人うるさいよ!」

チャイナドレスの女性は汚いものを見るような目で、さめたちを見ました。

「ほっとけ!どうせ俺のカギ一つじゃ開けられないんだ。」

「あの髭の人がもう一つのカギを持ってるの?あの人キモイ!借りてきて。」

「キモイかwあいつは職務に忠実だから、鍵を貸すわけないよ。

ばふぅ。

何か柔らかいものを叩く鈍い音がして、男の人が倒れました!

チャイナさんがカギを持って立っています。

「keiさん、もう一つのカギを奪ってきますから、もう少し辛抱していてください。」

えっ!

チャイナさんはkeiさんのことを知っています??

「ありがとおお~、良く解ったね、ここ!」

えええええええー

一同、驚きを隠せません!

「誰なんですか?」

さめはいちおうにびっくりした後、ほぼ反射的に質問してました。

「さめ~(-_-;)」

keiさんは呆れた顔でさめを見ています。

「とにかく、カギを奪ってきますね。」

飛ぶように身軽に外へ出ていきました。

「まだ、分からないの?きゅっぴじゃん!」

えええええええええええー

驚いているのは、さめだけです。

みんなはきょとんとしています。

「オサキさん!」

「キューピー」

「オサキ」

みんなも続けて復唱しています。

「そうそう、キュッピだよ。後でみんなに紹介するね。」

さめはあまりの驚きに動揺しているんですが、そんなことを言っていられなくなったようです。


ピーっ、ピッ、ピーっ!

甲高い笛の警笛です。

バン!

荒々しく扉が開きオサキさんが飛び込んできました。

「カギを奪うところを敵兵に見られてしましました。」

そう話しながら、リモコンのスイッチの番号を押しています。

カタ。

次に鍵穴にキーを入れて回します。

タン。

鉄製の扉が開きました。

「すぐに逃げましょう!」

おれが盾になろう的なジェスチャーで、おやっさんは外に出ようとします。

「おやっさん、きゅっぴにおまかせ!大丈夫だよ、強いんだからo(^^o)」

オサキさんはおやっさんに、2度頷くと外に出ていきました。

みんなも注意深くついていきます。

目の前では自警団の3人が剣を構えています。

オサキさんは剣をかわし飛びました、

バタバタバタ

次の瞬間には自警団3人は倒れています。

「さぁ、こちらです!」

オサキさんは石畳で出来た坂道を登り始めました。

前方から、また3人の自警団です。

3人1組で行動しているんでしょうか?

ひとり目を飛び蹴りで、飛んだまま体をひねり回し二人目を踵蹴り、3人目を飛び越えたと思ったら後頭部に肘打ち!

3人をひとっ飛びです…

一同は逃げるのも忘れ唖然として、オサキさんに見惚れています。

「わぁ、キュッピすごい!それってカンフー?」

keiさんだけは、はしゃいで喜んで走っています。

「何でしょうか、特別に武術を習ったことはありません。」

とにかく上へ上へと走ります。さきほどの牢屋は商業や公共の公共施設地域だった様です。

今は住居地域へ駆け上っているのですが、周りに何もありません。

暗がりの中に住居が見えてきました。

でも明かりが見えません。

ザウラクの人は深夜には寝てしまうそうですが、居住地域に人が住んでいる気配がありません。


追手の兵士たちとの距離は広がっているものの、兵士の数が増えています。

十数人どころではありません!

どぉーーーーーーーーん!

村の下の方で大きな音がして、きのこ雲のような炎が上がりました。

自警団も足を止めて眺めています。

そのうちの何人かが、炎の方へ向かって走りだしました、

「今のうち、こっちだ!」

いきなり建物の陰から男性の声が、さめ達を呼び止めました。

男性にくっついていくと、小さな民家に入り、男性は床を持ちあげます。

人が一人入れるほどの穴が開いています。

「さあ!」と、keiさんから中に入るように促します。

keiさんもちょっと躊躇して、みんなの顔をうかがっています。

「keiさん、そいつなら大丈夫だ。」と、おやっさんがkeiさんに声をかけました。

「そいつがザメハラの副町長のジグムトという男だ。」

トルネコさんも知り合いのようです。

イリーさんもジグムトさんを見るとびっくりした表情。

どぉーーーーーーーーん!

また落雷ような大きく響く爆音がしました。

「さあ早く、この通路を抜ければ追っ手をまくことができる。」


中に入ると側溝のような横穴が続いています。

天井は木製なので家の床の下を進んでいるようです。

あっ外に出ました。

「昔、川の水をここに貯めて各家に流していたんです。村の中心だけですけどね。今では川の水は農業用に、各家には水道が整備されました。」

トラネコさんがジグムトさんの肩を小突きました。

「3人は知り合いなんですか?」と、イリーさんがすかさず質問。

「イリア姫、ご無事で何よりです。」

ジグムトさんは貴族のように礼儀正しくイリーさんに挨拶しています。

「おれたちは経営経済、こいつは政治経済、しかも悔しいほどエリート!さらに女にモテモテだし(-_-;)」

トラネコさんはがっかりしたような表情でジグムトさんを紹介してくれました。

「でも、ジグムトさんは兵学校卒と聞いていましたが...?」

「兵学は王立卒業後です。」

そんなことより、ジグムトさんはオサキさんが気になる様子で、不思議そうに見ています。

この場に似合わないチャイナドレスです(^^;;

「イリア姫がとらわれているのはわかっていたのですが、どうにも近づくことが出来ず困っていました。牢獄からみんなを解放してくださりありがとうございます。」

でっだれ?って顔をして、オサキさんのことを見ています。

「きゅっぴね、強いでしょお。お友達です。」

「友達だなんてkeiさん、恐れ多いです。」

いちおうkeiさんは将来の土地神神様候補だから、オサキさんからは敬われてます。

「キューピーさん、keiさんのお友達なんですね。カンフーすごいですね。チャイナドレスが美しいというよりもかっこいいです!」

イリーさんには、おさきさんがかっこいい女性に見えたんでしょう。

憧れ的に目がキラキラしちゃってます。

おさきさんは神使だから、女性でも男性でもないわけですが...

「チャイナドレスって、スリットが腰まで入ってるんですね。だから、あんなに動けるの?セクシーですし☆」

帰ったらイリーさんはまずはチャイナドレスを買いに行くんだと思います。

イリーさんがチャイナドレスを着て剣を持ったら、やっぱオサキさんに負けないくらいかっこいいと思います。

「いやキューピーさん、本当に助かりました。ありがとうございました。それにしてもお強いですね。中国の方ですか?」

オサキさん、返事に困ってます。

「きゅっぴは今は日本人だよ。土地神様を守るお仕事をしてるんです。こんな遠くまで助けに来てくれて、きゅっぴ!ありがとお。」

ナイスホロー♪

さて、挨拶が終わったところで作戦会議がはじまりました。

いよいよ、組織の拠点、断崖絶壁の城塞攻略が始まりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る