ユウマくん①
―――
ザワザワ…
「ねえねえ聞いた?」
「聞いた聞いた!カナミちゃん、行方不明になっちゃったんでしょ?」
「そうそう、昨日突然姿を消したらしいよ。」
「かわいそう…ううっ…。」
「お、おい…泣くなよ。」
「もうすでに死んでたりしてね。」
「うざかったからバチ当たったんだろ!」
「ちょっと!そんな言い方ひどいわ…。」
「何はともあれ、早く見つかるといいね。」
「うん…。」
――朝から教室が騒がしい。せっかく優雅な朝を迎えたというのに…まったく。
カナミちゃん…いや、あの馬鹿が死んでいることを知っているのは僕だけだ。遺体は隠したが、誰にも見つけることはできないだろう。そんなことよりナコちゃんが心配だ。朝から元気がない。
「私…私のせいで…。」
違う。ナコちゃんは悪くない…!
「ごめんなさいっ。ごめんなさい!」
この手は使いたくなかったが…仕方がない。
『ナコちゃん。君は悪くないよ。』
「え!?あの…誰ですか?」
『あ、あの…僕は…その…か、神様だよ!神様!いつも君を見守っているんだ!』
「かみ…さま?ほんとにいたんだ。」
『あ、ああ…まあね。ハハハッ。それより、もう泣くのはよしなさい。君に涙は似合わない。』
「でも…私が悪いの。悲しくて…悔しくて…涙が止まらない。」
この調子じゃ、何を言っても無理そうだな。
『まあよい。そろそろ天に戻らなくてはならない。これからも見守っているよ。泣きたいときは泣けばいい。泣くことはストレスを軽減させる効果があるからな。』
「うぅぅ…っ…うっ。」
『ナコちゃん。君は僕のエンジェルさ。』
「ありがとう、神様。また会おうね!」
『またいつか…。』
ナコちゃん少し落ち着いたみたい…。よかった…。それにしてもなんだよあのくさいセリフ!ナコちゃんがあまりに可愛くて…ついエンジェルなんて…ああ…くそっ!
ちょっと待て…この気持ち…なんだ…?胸が…(物理的な胸はないが)心臓が…(物理的な心臓もないが)ドキドキする。これが…人間でいう恋ってやつなのか…?
―――
「みなさんおはようございます。突然ですが、みなさんに残念なお知らせがあります。行方不明になっていたカナミちゃんですが…今朝捜索が打ち切られ、正式な死亡届が提出されたとのことです。辛いと思いますが、きっとカナミちゃんは天国で幸せに暮らしています。天国のカナミちゃんのために、お祈りしましょう。それでは目を閉じてください…。」
―「先生、泣いてたね。」
「うん…なんだか私まで泣けてきちゃった。」
「だね…。」
あんなの演技だろ。どーせ自分の印象が良くなるように泣くフリをしていたんだ。
「ナコ、おはよう!」
わあびっくりした。なんだユウマくんか。
「おはよう。朝から元気いっぱいだね…。」
「ナコは朝から暗いな…まだ気にしてんのか?」
「う、うん…でも大丈夫!私には神様がいてくれるから。」
ナコちゃん…僕は嬉しいよ。きっと両思いだ!
「ハハハッ。なんだそれ。とにかく早く元気出せよ。俺はお前の笑った顔…嫌いじゃないぞ!じゃあな!」
「…っ!ユウマくん…あれ、なんでこんなにドキドキしてるんだろ…私…。」
ナコちゃん…?あいつより僕のでしょ?
「私…ユウマくんのこと…。よし!決めた。」
ゆうまくんへ
放課後、話したいことがあるので
屋上まで来てください。待っています。
おいっ!あいつへの手紙に僕を使うんじゃない!…ってこの内容…まさか告白する気じゃ…。
そんなの絶対だめだ!阻止しないと…。
ちょっと待て。今何を考えていた…?僕はナコちゃんを応援すべき立場じゃないか!それに僕はえんぴつなんだぞ?!ハハハッ笑える。…声は出ないが。
―キーンコーンカーンコーン♪
「先生さようなら〜。」
「はい、さようなら。」
―――
「話ってなんだよ。」
「あの…えっと、その…。わ、私…っ!じ、実は…っ!」
「ちょっと落ち着けよ。」
「ご…ごめん。」
「ナコが言わないなら、先に俺から言わせて。」
「え…?う、うん。」
「ずっと前から好きだった。その…だから…俺でよかったら付き合ってほしい。」
「うそ…。」
「だ、だめか?」
「ううん。そうじゃないよ。すっごく嬉しい!お願いします。」
「よっしゃあ〜!じゃ、明日からよろしく!」
「こちらこそ。」
「またな!」
「うん、ばいばい!」
これでよかったんだ…。これで…。
――数日後
今日もナコちゃんの家にあいつが来ている。
せっかくナコちゃんと二人きりだったのに…。
「ナコ!誕生日おめでとう。これプレゼント。」
あっ、そうか。そういえば今日はナコちゃんの生まれた日だったな。
「ありがとう!開けてみてもいい?」
「いいよ。」
ガサゴソ…ビリッ
おっ!なんだなんだ?
「わあ!可愛いえんぴつ!」
「ナコは勉強好きだろ?だから文房具店で買うことにしたんだ!この柄気に入ったか?」
「うん!とっても!大切に使うね。」
「おう!」
うそ…。えんぴつ?ナコちゃんのえんぴつは僕だけで十分じゃないか!
―――今日も僕を使ってくれなかった。もう、少なくとも1週間はナコちゃんに使ってもらえていない。あの派手なえんぴつのどこがいいんだよ…。くそっ!あいつがプレゼントにえんぴつを選んだのが悪いんだ!そうだ…全部あいつが…。
ユルサナイ。
ナコちゃんのえんぴつ 久遠 覡 @yuu22
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