カナミちゃん

キーンコーンカーンコーン♪


時刻は8時15分。

これは朝読書開始のチャイム。

真っ暗な筆箱の中で音だけが聞こえてくる。

 そう、僕はえんぴつだ。持ち主のナコちゃんは心やさしい小学4年生の女の子。


―キーンコーンカーンコーン♪

いつの間にか朝読書が終わってしまったようだ。

さて、1時間目は何かな。

「ナコちゃんおはよう!私、筆箱忘れてきちゃったみたいだからえんぴつ借りるね。」

この子はナコちゃんのクラスメイトのカナミちゃん。筆箱を忘れるなんて、馬鹿だな。それに図々しいぞ。僕はこの馬鹿が嫌いだ。

「ごめんね。今日はえんぴつの予備持ってきてないから貸してあげられないの。」

こんな奴に謝る必要ないのに…。

「ナコちゃんの意地悪!最低よ。そうよね、ユウマくん?」

何を言ってるんだこの馬鹿は。

「俺に聞くなよ。そもそも忘れてくるお前が悪いんだろ。」

よく言った少年。褒めてやろう。

「な、なによ!もう絶交だからね!」

「勝手にしろよ。」

フッフッフ。ざまあみろ。

「あの…ユウマくん、ありがとう。」

「おう、あんま気にすんなよ。」


―キーンコーンカーンコーン♪

時間がすぎるのはあっという間だ。

帰りの会が終わってしまったというのに、ナコちゃんはまだ僕を筆箱にしまっていない。

学級日誌…?なるほど、今日は日直の仕事があるのか。

「ちょっとナコちゃん。いいかしら?」

あ、馬鹿が来たぞ。今度はなんだ?

「さっきのこと、謝りに来たの。」

やけに素直だな…。

「ううん、こちらこそごめんね。」

ナコちゃん天使だわ。ほんと。

「お詫びしたいから、帰りうちに寄ってもらえるかしら?」

「でも私…」

「ナコちゃんが帰り道に野良犬のエサやりをしてることくらい知ってるわ。」

「え…?」

「だから、犬のエサを恵んであげるのよ。」

「ちょうどエサ足りなかったから助かる!」

「それじゃ、行きましょ。」

「うん!」

カナミちゃんもいいところあるじゃん。

それにしても、ナコちゃん嬉しそうだなぁ。


―「はい、どうぞ!」

「ありがとう、カナミちゃん。わんちゃんきっと喜ぶよ。」

「それなら良かったわ。それじゃまた明日、学校でね。」

「うん!またね。」

二人の会話が聞こえてくる。

案外仲良しなのかな…。


―「ワンッ!」

「わんちゃんおまたせ!ご飯だよ。」

「ワンッワンッ!」

ガブガブ…ゴボッ

「え…わんちゃん…?泡吹いてる…?」

ゴボゴボゴボッ……ドサッ

「…」

「うそ…わんちゃんが…息をしてない。私のせい…?う、うぅ…」

 なんだなんだ?なんでナコちゃんが泣いてるんだ?くそっ、筆箱から出られたらなぁ。

 

それからしばらく、ナコちゃんが泣き止むことはなかった。


―翌日

 「おはようナコちゃん。あの犬の死に様はどうだった?ウフフ。」 

「もしかして…カナミちゃんが毒を混ぜたの?」

「さあね。たとえ私が毒を入れたとしても、エサをあげたのはなこちゃんよ?あの犬はナコちゃんが殺したのよ!」

なるほど。カナミちゃんは謝ると嘘をついてナコちゃんを騙した挙げ句、間接的に犬を殺したってわけか。コイツ…許さない。

「ひどい…ひどすぎるよ。」

ナコちゃん泣かないで。僕が守ってあげる。

「ナコちゃん、あんたが全部悪いのよ。じゃあね。」


『逃げるな。悪いのはお前だカナミ。お前は僕を怒らせた。今から罰を受けてもらうぞ。』

「なによ、この声。気持ち悪い…!」

『残念だがこの声はお前にしか聞こえていない。助けを求めても無駄だよ。』

「きゃあ!なにこれ。体が動かない!」

『さて、始めるとするか。手始めに…腕!』

グサッ…グサッ…グリュ

芯が折れなければいいが…。

「痛い痛い!!え、えんぴつ?!ちょっと…やめなさいよ!」

僕だって痛いさ。お前だけじゃない。

『次は足!』

グリュグリュッ…プシュッ

あぁ…血なまぐさい。勘弁してくれ。

「血…血が……もう許して。ごめんなさい。」

『今やめたらもっと痛いよ?大丈夫。もう少しで楽になるからね…。次はどこにしようか。』

「お願いします助けてください。」

助けるもんか。そろそろトドメだ。

『嫌だね。よし決めた!次は心臓!』

カナミちゃんが震えてるのが伝わってくる。面白い。僕の体もすでにボロボロだが、今やめるわけにはいかない。

『さよなら』

「キャー!ごめんなさい!ごめんなさい!」

グサッ…ブッシャー

「あ…あぁ…」

ふ〜…なかなか疲れるなぁ。

この様子じゃすぐには死なないな。まあせいぜい苦しめばいい。


 『任務完了。』

さて、戻ろう。


―「あれ、私のえんぴつがない!」

「もしかしてこれ?」

「あ、それ!ありがとうユウマくん。」

間に合った…。ユウマくんナイス!

「おう。それよりさっき、カナミの叫び声が聞こえなかったか?」 

まずい。聞かれていたか…。

「いや?聞こえなかったけど。」

良かった…ナコちゃんに聞かれてなくて。

「気のせいか。まあ、あいつは少し調子に乗ってたからな。少し痛い目に遭えばいいんだ。」

もうすでにヤッといてあげたよ。

「そんなこと言わないで。とにかく、えんぴつ見つけてくれてありがとう。」

「おう!」

「ん…?少し汚れてるような…まあいっか!」



今日もナコちゃんの平和は守られた。私の手で。







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