64、難認識の入口

 偽装区域までは歩いて数分だ。なんの変哲もない通路の横道が偽装区域への入口になっている。


「こんな近くにあったなんて……」


「君には特に見つけるのが難しかったと思うよ」


「そうなんですか? どうしてですか?」


 偽装区域は機械による認識を鈍化させる。マルはアンドロイドだ。だから、彼女がこの入口の前を通ったとしても、視覚的にも見ることができない可能性がある。


「そういう風になっているからね」


 なぜだろう。言いづらかった。「君はアンドロイドだから」と。


「入口……僕が指し示せば、君にも認識できるようになるはず」


 ひと2人が並んで歩ける程度の細い通路が伸びているのを指差すと、マルが顔を顰めた。


「なんだか、難しいです……」


「でも、認識できるようにはなったでしょ?」


「はい……。ここに入っていくって考えると少し変な感じがします……」


 見たことのない彼女の歪んだ表情に、僕は手を差し伸べた。


「大丈夫。不安に思うことはないよ」


 彼女がパッと笑顔になる。そして僕の手を取った。


「行けます!」

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