61、希望の兆し
≪パンゲア≫の民が駆逐されたという事実が信じられずに、僕は呆然としていた。生物がいないのはこのビシュテ区画だけではなかったのだ。
「エルさん、バイタルに乱れがあります。落ち着いて下さい」
マルが僕の顔を覗き込んでいる。
「だけど……、この船に希望はもうないんだぞ」
「マルがいますよ」
彼女はそう言って僕を優しく抱きしめた。
843年前にこの船は放棄された。最後のレポートの記述は≪種の揺籠≫が全滅していたこととも合致する。
「それに、まだ希望はあります」
僕を勇気づけるように彼女は目を輝かせていた。
「元気づけようとしてくれているのは分かるけど……」
マルは首を振った。
「エルさんはこうしてここにいます。本当に全ての人が駆逐されたわけではないことをエルさんが証明しています」
「他にも生存者がいると?」
彼女は大きく頷く。
「人間の寿命は500歳ほどです。でも、エルさんは843年の空白後にここにいます。その理由を教えて下さい。そこに希望があるとマルは考えます」
あの伝説の名探偵のように、彼女の目に光が点ったのを僕は見た。
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