32、おいしさのもとは?

 僕たちは野菜工場を出て、右側の通路を進んだ。


「君はここから先は一度も来たことないんだよね?」


 彼女は頷く。


「はい! 新しいマッピング情報おいしいです!」


「おいしいんだ……?」


 彼女には、周辺の空間情報をスキャンし、大気組成や危険物の感知、自身の行動規範の更新などを行う機能が搭載されている。


 彼女は首を傾げる。


「エルさんは食べ物を食べて情報を得てないですか?」


「あまり情報を得てるっていう感覚はないかな……」


 彼女は驚愕の表情を浮かべる。


「そうだったんですか! 『おいしい』って情報を得た時の反応じゃなかったんですか!」


「そんな解釈してたんだ……」


「解釈定義を更新します」


 真面目な顔で言うので、僕は慌てて言った。


「いや、わざわざ直さなくてもいいよ。それはそれで合ってると思うし」


「おいしいでいいですか?」


 心配そうな彼女に僕は迷いなく、「うん」と返す。


 彼女は笑った。


「えへへー、おいしいです」

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