31、ビシュテの匣庭

 野菜工場の入口が見えてくる。


「野菜を収穫していこう」


「はい!」


 マルがいい返事で野菜工場のドアをくぐる。広大な空間に敷き詰められた高いラックの中は眩しい光で満ちている。内部は多層構造になっていて、層ごとに異なる野菜が生産される。


「トマトです」


 彼女はそう言ってラックを開き、赤い実を収穫した。トマトをキャリアーに積み込む。キャリアーには簡易調理器を積んでいるから、いつでも食事を作ることができる。


「ても、こんなに野菜があると、全部食べ切れるでしょうか?」


「大丈夫だよ。自動収穫で余剰分は≪ビシュテの匣庭はこにわ≫の土壌に還元されることになってる」


「おお〜、すごい! ところで、≪ビシュテの匣庭≫ってなんですか?」


 思わずずっこけそうになる。


「知らないで感動してたのか。地球環境を再現した擬似生態系だよ」


「行ってみたいです!」


 カオスが好きな彼女ならそう言うだろう。


「≪ビシュテの匣庭≫までは数日かかるし、何世代も前から閉鎖されていて、どういう環境変化が起こっているか分からなくて危険なんだ。だから、残念だけど……」


「そうですか……」


 彼女は肩を落とした。

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