33、星の海の底
彼女にはどうしても見てもらいたい光景があった。通路の先の大ホールにある旅客用エレベーターに乗る。
「はえ〜」
駆動する大型設備を初めて見るからか、彼女は口を開け放したまま、辺りをキョロキョロと見回している。きっと「おいしい」のだろう。
エレベーターはビシュテ区画のZアップエンド(※註)まで向かって、やがてドアが開いた。
その瞬間、マルの目が輝いた。
「うわぁ〜!!」
エレベーターから飛び出して行った彼女の頭上は全て非対称透過外壁のドームだ。
「ここが展望デッキだよ」
「すごいですね! 星がたくさん見えます!」
彼女はそう言って僕の手を取って、ドームの真ん中へ駆けていく。そして、しばらく頭上の星の海を眺めた。
「たぶん、昔の人たちもこうやってここで星を見ていたんだと思う」
僕の声なんか聞こえないように彼女は口を開け放したまま、見上げている。
僕の手を握る彼女の体温は、いつもより熱を持っているようだ。
〜〜〜
【註】
Zアップエンド:Z軸の上方終端
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