29、人は……

 追尾式のキャリアーがマルを認識して動き回っている。彼女は歩く方向を変えるたびに後ろを振り向いてキャリアーがついて来ているか確認する。


「問題ありません」


 彼女はそう言ってキャリアーから突き出るセンサーヘッドを撫でた。このヘッド部分がキャリアーのほぼ全てだ。認識、無線電源受信、アーカイブ接続、演算機構接続がここに集約されている。


 キャリアーを従える彼女を見て僕は言った。


「先輩みたいだね」


 彼女は首を傾げる。


「せんぱい?」


「先に活動している人のことだよ」


 マルの表情がパッと明るくなる。


「マル、人ですか?」


 相変わらず食いつくところが予想外だ。


「まあ、人って言ってもいいと思うよ」


 マルは急に考え込む。


「エルさんとマルは人で、エルさんはしあわせで、マルは人で……、人はしあわせですか?」


 人はしあわせなのだろうか?


 僕はマルの問いに答えることができなかった。

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