28、朝の挨拶

 午前7時を告げる鳥の囀りがスピーカーから流れる。その音が去るのを中空に顔を向けながら待っていたマルが言った。


「ずっと質問を保留していたんですけど、この音ってなんですか?」


「朝7時の音らしい」


 彼女は首を傾げる。


「あさ?」


「僕も詳しくは知らないけど、惑星上では恒星の光の当たり方で朝と夜に時間帯が分けられていたらしい。ここも昔はそれに合わせて窓の外の光源を変えてたみたいだよ」


「惑星……。惑星に生物が住んでいたんですよね。ウサギですか?」


「ウサギもいたと思うよ」


「地球の月にもウサギがいましたよね。惑星と衛星にはウサギがいますか?」


「どうなんだろう。もしかしたら住んでいたかもしれないけど、昔の文献を見ると、ありえないことみたいに書かれてたよ」


 彼女は口をポカンと開け放している。どうやら、アーカイブの力を借りる気はないらしい。


 僕は彼女に言った。


「おはようございます」


 彼女は目を丸くした。


「なんですか、それ?」


「昔の朝の挨拶だよ」


 彼女の目が輝いた。


「おはようございます!」

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