25、せんせい

 マルがニコニコしながらやってきた。


「どうしたの?」


 そう聞くと、彼女は待ってましたと言わんばかりに、


「アルが咲きました」


 と言った。アルは彼女が育てている植物だ。


「見せて」


 彼女は向こうのほうへ行き、鉢植えを大事そうに抱えて戻って来た。


 淡い紫がかった白の細かい花弁の中心に黄色い部分が丸くある。


「アルです」


「なんていう花なんだろう?」


「データベースで照会しました。ハルジオンという名前だそうです。エルさんは知ってますか?」


「いや、地球植物は詳しくないんだ。アルのたねも種子保存庫が停止してから持って来られたものらしくて、ラベルもなかったんだ」


彼女が得意げにニンマリとした。


「マルがせんせいですね。エルさんにたくさんアルのこと教えてあげます」


「よろしく、マル先生」


 僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに歯を見せた。


「えへへ、せんせい……」


「マル先生、土が乾いてる。水をあげたほうがいいんじゃない?」


「あっ、はい!」


 彼女は飛び跳ねて、慌てて駆けて行った。慌ただしい先生だ。

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