23、ウサギさん

「昔の人はどうやって星を繋いで星座を作ったんでしょうか?」


 窓際で僕らは手を繋いでいた。それが星を見る時の約束事みたいになっていたから。彼女の手から伝わる温もりが言葉以上のものを伝えてくるような気がする。


「想像力が豊かだったんだろうね。人間の脳には複数の点から形を作り出す働きがあるんだよ」


「シミュラクラ現象、ですね」


 彼女はこのところ時折、知識のアーカイブに接続しているようだった。好奇心が旺盛なのだ。


「天体のクレーターにもいろんな動物の形を見ていたんだよ。地球の月にはウサギが住んでいたっていう考えがあったらしい」


「ウサギ?」


 彼女はアーカイブではなく、僕との対話を優先している節がある。理由は分からない。


 まるで、おしゃべり好きな──


「ウサギさんのこと、知ってますか?」


 気がつくと、彼女の顔が僕の目の前に接近していた。


「う、ウサギに『さん』はつけなくていいんじゃないかな」


「固有名詞じゃないですか?」


「固有名詞じゃないよ。動物のしゅの名前だね」


 彼女はポツリと呟く。


「人間の他に動物がいますか?」


 僕は頷く。


「正確には、いた、だね」


 彼女は首を傾げる。


「過去形ですか?」


「過去形だよ」


「見てみたかったです、ウサギさん」


 彼女は過去形でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る