20、冒険心

 収穫したナスをカゴの中に入れて、彼女は僕を見た。


「予定していたものは全部収穫しました」


「ありがとう」


 彼女はニコリとする。


「おめでとうございます」


「おめでとう?」


 彼女は首を傾げる。


「ありがとうとおめでとうはセットではないですか?」


「必ずしもセットではないかな」


 彼女は困惑している。


「じゃあ、こういう時はどう言えばいいでしょう?」


「どういたしまして」


 彼女の顔がパッと明るくなる。知っている言葉らしい。


「どういたしまして!」


 2人で野菜工場を出る。


 いつものように通路を部屋の方へ行こうとすると、マルは反対の方向を見つめた。


「向こうに行ったことがありません。まだ、禁止ですか?」


 彼女は寂しそうに言った。


「今度、向こうにも行ってみる?」


 彼女は目を輝かせて大きく頷いた。


「わーい」


 先を行く彼女の背中は軽やかだ。


 そのうち、彼女も知らなければならないだろう。


 ここのことを。

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