19、できないできない

 自動化してあるプロジェクトの進捗が芳しくなかった。僕は頭を掻いて椅子に深く腰掛けた。


「今のはなんですか?」


「うわ、びっくりした。そこにいたんだ」


 彼女が好奇心に満ちた目を向けてくる。


「今のなんですか?」


「今の?」


「頭を引っ掻いていました。自傷行為の発生なら、マルが精神安定剤を持って来ましょうか?」


 心配そうな彼女の顔。


「心配しなくていいよ。頭が痒くなって掻いただけだから」


「かゆく……? マルもかゆくなれますか?」


「うーん、ちょっと難しいかな」


 彼女は僕の言葉を聞くと、悲しそうに目を伏せた。


「大丈夫?」


「マルはできないことばかりです……」


 僕にとって不要なことだったのに、彼女には夢に見るようなことだったのかもしれない。


「君も僕よりたくさんのことができるよ」


「うらやましい、ですか?」


 小首をかしげる彼女に大袈裟に言ってみせた。


「ああ、すごく羨ましいよ」


 彼女は白い歯を見せた。


「えへへ」

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