14、すってんころりん

「マル、転んでみたいです」


 急に変なことを言う。


「転んでみたいの? どうして?」


「エルさん、さっき箱につまずいて転んでましたよね」


「見てたの?」


 彼女は拳をグッと握って凛々しい表情を見せた。


「しっかり見ました!」


「見なくていいよ」


「その時のエルさん、心拍数が上昇していました。そのどきどき、知りたいです」


「そう言われてもなぁ……」


 彼女には、独自に稼働する高速並列処理型マルチスタビライザーを搭載している。予期しない転倒は不可能だ。


「転びたいです」


 彼女は口をすぼませて、僕が蹴躓いた箱のところに走っていった。そして、蹴躓いた振りをして、ゆっくりと体勢を変えて床に寝転んだ。


「うわー、やっちゃったー」


 あまりの大根演技を真面目な顔をしてやるので、僕は笑ってしまった。

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