13、高鳴るもの

「すみません……」


 ベッドに横になった彼女が申し訳なさそうに言った。


「気にしないで。取り返しのつかないことじゃない」


 シチューを一気に流し込んだことで、彼女の体内の生体部品が破損したようだった。僕は彼女の服の前を開けようとして、強い躊躇いを覚える。


「どうしましたか? やっぱり怒ってる?」


 いきなりしおらしい話し方をされて、ますます戸惑ってしまう。


「なんでもないよ」


 彼女の服を開いて、胸のユニットを分離スタンバイさせた。彼女の鎖骨部分から鳩尾あたりまではY字切開のように開胸できるようになっている。彼女の身体はマネキンのよう。人間的な特徴はない。


「生体ユニットを外すよ」


「初めてでどきどきしますね」


 思わず手が止まってしまう。


「鼓動を感じるの?」


「こういう言い方をしてみたかっただけです」


 彼女は笑った。

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