12、苦手なこと
「ちょっと塩辛いな」
そう言うと、彼女は慌てて砂糖を振りかけた。シチューが軽い雪化粧だ。
「多分だけど、塩辛さは砂糖では消えないと思うよ」
僕がそう言うと、彼女は困ったように眉尻を下げて、僕の顔とシチューを交互に見つめた。
「マル、失敗しましたか?」
僕はスプーンでシチューをすくって口に運んだ。苦笑いしてしまう。
「ちょっと失敗かもな」
彼女はあからさまに落ち込んでしまう。そんな姿が可愛らしくて、慰めるのを忘れていた。
「お手伝いしたかったんですが、マルのせいで貴重な食料が……」
「大丈夫だよ。気にしないで」
マルには有機物を処理できる機構が組み込まれているが、食事を取る必要はない。だから、料理ができなくて当然なのだ。
彼女は僕の目の前にあるシチューの皿と僕のスプーンを素早く取って、勢いよく掻き込んでしまった。
「おいしい、です」
そう言って彼女は気まずそうに強張った笑みを浮かべた。すぐにその目が涙がちになる。
「あついです」
そう言って、ピンク色の舌を出した。
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