8、いる? いらない?

 鏡の前で髭を剃っていた。気がつくと、すぐそばでマルが僕を観察していた。


「びっくりした……。いつからそこにいたの?」


「マルはうまれた時からここにいますよ」


「いや、そういうことじゃないんだけど……。どうかした?」


「エルさんは今なにをしているんですか?」


 まだ剃り残しの多い顎を指差した。


「髭を剃ってるんだよ」


「ひげ……」


 そう呟きながら、彼女は自分の顎をさする。


「君にはないよ」


 笑ってそう言うと、彼女は不服そうに口をすぼめる。


「うらやましいです。マルもひげ、ほしいです」


「あっても面倒臭いだけだよ」


「エルさんはマルにひげなかったらさびしくないですか?」


「いや、絶対ない方がいいよ」


 彼女は目を丸くして、顎を押さえた。


「やっぱりいりません!」

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