魔王軍の落ちこぼれ四天王に転生したので最弱なりに知恵で勇者たちを倒してたら魔王女に惚れられました。他の四天王たちには悪いんだけど多分あと1000年はお前たちの活躍は無いと思う。
第43話 いつもの日常とやるべき色んなこと!
第43話 いつもの日常とやるべき色んなこと!
魔王様暗殺計画を防ぎ、3日が経った。
コクジョウ領主ブユダの暗躍の証拠もガッチリと掴め、魔王城にはまあこれでもかと激震が走りましたとも。ブユダの治めていたコクジョウ領地は解体され、四天王による分割統治を行うことになったわけだけど……。
「アリサワ、基本的に旧コクジョウ領地の管理はあなた一任したいと思いますが、よろしいですね?」
「俺っ?」
「はい、アリサワにです」
エキドナは小さくため息を吐きながら言った。
「正直、私は魔王城や各階層の管理で手いっぱいでして……ワルキューレやグライアイは少し頼りないですから。そ・れ・に」
ズイッとエキドナがジト目で俺を覗き込んでくる。
「もう少し時間があれば、領地管理の人材を調達してくることもできたのに……こんなにてんてこ舞いなのは、ギリギリまでブユダの裏切りについてを私に相談してくれない【誰かさん】のせいですし」
「うっ……!」
だって、仕方ないじゃないか……。確証を得るのに時間がかかったし、それにエキドナはゼルティアが戦場に立つのには思いっきり反対しそうだし……説得の言葉を考えていて相談を後回しにしてたら敵が来ちゃったんだもの。
……まあ、俺が悪いっすね。はい。報連相を怠って申し訳ないっす。
「はぁ……」
新しく増えた仕事にため息を吐いていると、ちょんちょんと、後ろから肩を突かれた。
「アリサワ」
「ん? ああ、ワルキューレか」
「ため息なんてついて、だいぶお疲れですのことね?」
ワキワキと、ワルキューレが指を動かし始める。
「この前のお返しに、今度はわたくしがアリサワに【
「んー、イントネーションがおかしいねぇ?」
指圧だろ? 死圧ってなんだ。殺す気なの?
「遠慮しときます。それじゃ、俺これから予定があるので。サラバっ!」
「ちょっとちょっとアリサワ! わたくしがせっかくしてあげるって言ってるのことなのに! ご覧なさい、この指の威力!」
ドゴォッ!
「ホラ、魔王城の壁もこの通り! 粉微塵ですのことよっ!」
「エキドナさーーーんッ! ここに破壊魔がいますよーーーッ! 捕まえてくださーーーいッ!」
「ちょっと、アリサワぁっ!? なんでエキドナ呼ぶんですのことっ!?」
俺がそそくさと逃げる後ろで、ワルキューレがそのゴシックドレスの襟首をエキドナに掴まれる光景を見た。うん、いっぱい叱られてくれ。
「ワルキューレッ! あなたはまたこんなに壊してっ!」
「ぎにゃぁぁぁぁあっ!?」
背後にそんな四天王ふたりのやり取りを耳にしつつ、俺はその場を急ぎ足で後にした。
……なんせ、この後予定があると言ったのはウソじゃない。ゼルティアに会いに行く用があるんだから。
* * *
魔王城の西館、その1階にゼルティアたちはいた。
「セェェェェェイッ!」
「ハァァァァァァッ!」
ガキンッ、ガキンッ! と、俺の視認速度を越えた
「くぉぉぉおっ! ナサリー、貴様っ! ホントにブン・オウと同格かっ!?」
「相性を加味すれば、ですね……! しかしこの剣技は十英傑の誰にも負けているつもりはありません。まだゼルティア様にも負けはしませんよっ!」
もう数カ月の間同じように実戦形式の特訓をしているが、どうやらまだ腕前としてはナサリーの方が上回っているようだ。
ガキンッ! と剣が交わり、ふたりの動きが止まったそのタイミングで、
「むっ、タケヒコではないか! いつの間に!」
おお、ひっそりと見ていたつもりだったけど、気づかれてしまったみたいだ。
「……それでは実践訓練については今日はここまでですね」
「ああ。手合わせありがとう、ナサリー」
ナサリーとゼルティア、ふたりが剣を引いて俺の方までやってくる。
「さて、タケヒコ。【例の件】だが、エキドナたちの反応はどうだ?」
「うーん、まだ賛成か反対かは決めかねてるみたいかな」
「そうか……私はタケヒコの提案は良いものだと思ったのだがな。無駄な戦争を減らすことができるわけだし、もちろんこれまでの遺恨をどうするかという問題は根深いだろうが……」
「もうちょっとがんばってみるよ。【聖王国との和平交渉】はさ」
いま、俺の発案で聖王国との和平交渉を進めようという話を魔王城内の会議にかけようとしているところなのだ。俺がそれを推し進めたいと思ったキッカケはもちろん……聖王国大司教、アトゥムと交わした言葉だ。
……その全てをゼルティアに話すわけにはいかないけれど。
大司教アトゥムとの約束だ。俺は、ゼルティアにアトゥムが肉親だったとは伝えていないし、これからも伝えるつもりはない。彼は最期まで自身をゼルティアの敵とすることで、ゼルティアの目の前で肉親が再び死ぬところを見せまいとした。
万が一にもゼルティアが悲しむようなことは避けたいと、俺も思っている。だからこそその秘密は俺が墓場まで持っていくつもりだ。
……せめてその役目くらいは果たさないとな。これはブユダにトドメを刺し切れなかった、俺の詰めの甘さが招いてしまった結末なんだから。
あのとき、アトゥムを生かすことさえできていれば、聖王国との国交の回復も早かったろう。それに、いつかゼルティアと腰を据えて話す機会が来れば、もしかしたら少しくらいはアトゥムにも救いがあったかもしれないのに……。……はぁ。
「タケヒコ?」
「えっ? ああ、どうかした?」
「いや、こちらのセリフだぞ。どうしたのだ、急にため息なんて吐いて」
「あれ、うそ? 俺、ため息吐いてた……?」
マジか。ぜんぜん無自覚だったんだけどな……。
「うーむ。タケヒコ、私はちょっと心配だぞ」
「え?」
「ほら、最近はみんな色々とタケヒコに仕事を押し付けてしまっている気がしてな……少しオーバーワークなのではないか、と」
「いや、別に押し付けられてるわけじゃないよ?」
どっちかっていうと……自ら背負いにいってる感じだ。
「しかしな、聖王国の捕虜たちとの交渉も一任してしまっているし」
「俺の他にまともにあの人間たちと話せる魔族がいないからね……」
聖王国の捕虜……それは言わずとも分かるだろう、大司教アトゥムと共に刺客としてここまでやってきたふたりの聖職者たちだ。
この魔界においてはだいたいどの魔族も【聖王国の人間=敵】という認識なので、交渉を任せるのには不穏すぎる。それに、その捕虜たちも俺たちに対して取り付く島もないって感じだから……正直、かなりやり辛い。
「できれば友好的な関係を築いて、聖王国との対話のテーブルを用意してもらいたいんだけどな……」
大司教アトゥムが魔族によって殺害されてしまっている今、状況はかなり厳しい。だからこそ、せめて捕虜たちとの関係は良好にしておきたいところだ。
「ちなみに聖王国との対話が実現した場合……その時は魔界に来てもらうのか? それとも私たちが聖王国へと向かうのか?」
「俺たちが聖王国に行くようになるだろうね。提案した側だからさ。それに……正式に聖王国に行けるなら、ナサリーの目的も達成できるし」
ナサリーの目的、それは元勇者パーティーの聖職者であり、ナサリーの親友であるレイシアの遺体を聖王国へと運ぶことだ。
「マスター……! 私のことまで考えて……!?」
「ああ。そういう内容で契約したんだから当然のことだろ?」
「ありがとうございます、マスター! このご恩は必ず、きっと……!」
「いやいや、まだ達成できてないんだから、頭を上げてくれ……」
そうだ。まだまだ障害は多い。特に、大司教アトゥムを失った聖王国側の内政はいまどうなっていることやら。
「この先もいろいろと、やることが多そうだなぁ……」
ついため息がちになってしまう。
「タケヒコ」
「ん? どうかした?」
「やはり……私はタケヒコにいろいろ任せすぎていると思う」
いや、そんなことはないよ──と言おうとすると、しかしその口はゼルティアの指で封じられてしまった。
「いったん、やることを整理しないか? 魔王城もこの慌ただしさだし、当分は私の方でやるべき公務も無くてな。きっとタケヒコの作業を分担して引き受けることができる」
「えっ……でも」
「いいから。とりあえず話だけでもしよう。私の自室に来てくれないか?」
そんな風にゼルティアに押し切られてしまい、俺はゼルティアの自室へと向かうことになった。
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