第14話 非モテの俺にも春が来た?
勇者も撃退し終わったことでもうこの地下第1階層にゼルティアが用なんてあるはずもないと思っていたんだけどな。俺にお願い? なんだろうな、もしかして出世とか?
……なんてちょっと期待したりなんかして、ワクワクしてたのですが。
「ふむ……」
「……」
「ふむふむ」
「……あのー?」
なんか、めっちゃ見られるんだが。いろんな角度からジロジロと、そりゃもう舐め回すように。お願いって……これ?
「うーむ……」
「あのー、ゼルティア様?」
「えいっ」
モミモミ。
「うおっ⁉︎」
急に二の腕を揉まれて変な声が出てしまう。
「ほほう、やはり……」
「ちょ、ゼルティア様……あんっ、ダメっ! そんなところ……!」
頬を触られ、胸板を触られ、太ももを触られ、お尻を触られ……なんだこれ、美少女に体中をまさぐられ、なんだかすごく変な気分……って、いやいや!
「い、いい加減にしてくださいゼルティア様っ! さっきからいったいなにをっ⁉︎」
「ん? ああ、すまない」
ゼルティアはようやく俺から手を離してくれる。
「アリサワ、貴様はやはり本当にごく普通の魔族なんだな。いや、いっさいの魔力を感じない分、それ以下の力しかないとも言える」
「唐突な罵倒っ⁉︎」
「いやいや、違う。本当に個の力に頼らず、その知恵と勇気のみを携えてあの勇者を討ち果たしたのだな、と。改めて感心していたのだ」
そうなのか? まあ確かにゼルティアに嘘を吐いている様子はない。
「さて、アリサワ。今それをこうして改めて確認できた。やはり貴様は一見普通でいて、普通ではない。そんなアリサワに……頼みたいことがある」
「頼みたいこと? さっき言ってたお願いってやつですね?」
「ああ。アリサワ、私に戦略というものを教えてはくれまいか?」
「……え?」
戦略を……教える? 俺が、ゼルティアに?
「アリサワはさぞかし多くの戦略をその頭脳に蓄えておるのだろう? 私はこれまで武の道を極めることばかりに専念していて、そういった頭を使った戦というのは専門外なのだ」
「は、はぁ」
「だが、最近は聖王国にしろ近隣諸国にせよいろいろとキナ臭い。戦争となれば私ひとりの武の力でどうこうなる問題を越えているのだ。時代は上手く戦力を動かせる将を求めている。おのずと私に求められる能力も……」
「なるほど、話は分かりました」
「で、では、教えてくれるのだなっ⁉」
ゼルティアが目をキラキラさせながら前のめりになってくる。俺が断らないと疑わないまなざしだ。しかし……
「申し訳ありません、ゼルティア様……私に戦略は教えられないかと」
「なっ……なんでだ……? ア、アリサワは、私に教えるのが、イヤか……?」
「ちっ、違います違いますっ! 私も教えられるものなら教えたいですっ! だからそんな泣きそうな目をしないでっ!」
目をウルウルとさせるゼルティアに必死に弁解する。
「その、実を言うと私もそんなに戦略の種類とかは知らないんです」
「えっ? いや、先日あんなにいろいろと張り巡らせていたじゃないか」
「それはただのにわか知識というか、なんというか」
この前俺が使った計略、そのベースとなる【ランチェスターの法則】、孫氏の【兵は詭道】など、それらは全て軍略書を読んで覚えたものじゃない。すべて【ビジネス書】に書かれてあった超有名な概念なのである。
実は俺、前世では起業しようと思ってたんだよな……だからいろいろと経営戦略系のノウハウ書とかを読んでいたワケ。そこで知ったんだが、そういった経営戦略には過去の戦争で実際に起用された戦略を応用しているものも多くて……それで自然に頭に入ってしまっていたのだ。
「……なので、私は教えられるほど多くの戦略を知っているわけじゃないんですよ。ですから、それは専門の人に教えてもらった方がいいかと」
例えば同じ四天王のエキドナなんかは頭良さげだし、いろいろと知っているかもしれない。そうでなくとも魔王城にはそういったことを教えてくれる専門家とか居そうなものだよな?
「他に教えてもらえるような人はいないんですか?」
「む……いや、居るは居るのだが」
「ならその方に学べばよいのではないでしょうか? 別に私じゃなくても……」
「いや、それは……だって」
「……?」
なんだ? ゼルティアらしからぬモジモジっぷりだ。
「だって……」
「だって?」
「だって、アリサワに教えてもらいたいと、思ったんだ……」
「……⁉」
あれ? おいおい、これってもしかして……。
「ゼルティア様、その……それは俺が勇者を倒したからとか、そういう理由ですか?」
「そ、それもある」
それもある、ってことはそれ以外の理由もあるってことだよな?
……ハチャメチャにラブコメの予感がするのですが、これいかに。
前世は非モテで通った俺に、とうとう春がやってきたのかっ⁉ クリスマスに予定空いてるかと女子に聞かれて空いてると答えたら『バイトのシフト替わって』って大学4年間毎年言われ続けたこの俺にも、とうとう春が……!
「ゼ、ゼルティア様、もしかして俺のこと──」
しかし、俺の言葉を遮るように、ザッと人影が現れた。
「タケヒコ様、敵襲です」
そう報告してきたのは、勇者ナサリー……のその姿を模したままのドッペルゲンガーがだった。
「……えっと、規模は?」
「およそ500です」
「分かった。ペルは通信の呪符を持って前衛へ向かってくれ。レイにも伝えてくれ」
「はっ!」
ふたりとも俺の指示通り、迅速に行動に移してくれる。
……あ、ちなみにペルとはドッペルゲンガーのことだ。ドッペルだからペル。安直と言うことなかれ。
「お、おい、アリサワ……」
「あ、ゼルティア様。すみません、お話を遮ってしまい……で、さっきの続きなんですが」
「そんなことは今どうだっていい!」
「え」
青春に関わることですよ? 俺にとってはどうだってよくはなかったのですが……。
「敵襲なのだろう⁉」
「え、ええ……」
「いったいなぜ、聖王国は戦力不足なはず……いや、それを考えるのは後だ! 早く各階層守護者に連絡をして、迎撃態勢を整えなくては……!」
「あ、その……もうその必要はもうありませんよ」
「えっ……?」
もうやらなくちゃいけないことの9割は済んでるしな。準備はとっくの3日前、勇者を倒した直後から取り組んでいたのだから。
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