第17話 失ったものは
全てが終わった…。
モーリー・ローズウォリックの復活を阻止できたわけではないが、目の前の危機は回避できたのだろう。そう信じたい。
悪魔払いをして、これ程すっきりしない結末は初めてだった。だがカイトにはまだやらなければならないことが残っている。8人の犠牲者の魂をしかるべき所に送り届けること。そしてアリスの処遇、カミュアたちの今後の事。考えることは山積みだ。
カイトはゆっくりと振り向き、へたり込んでいるカミュアの側に膝まづく。
「カミュア…」
「…」
カミュアは答えない。嫌われても仕方ない…とカイトがため息をついた時、美術室の扉が開いた。
「ミッシェル先生!」
ジェイクがライトを連れ、勢い良く部屋に入ってきたのだ。そして、なにもなくなった部屋を見て唖然とする。
「ミッシェル様…」
「カイト先生! ミッシェル先生は?」
ライトとジェイクは説明を求めるように、カイトを見つめる。だがカイトは…。寂しく首を降ることしかできなかった。
「そ、そんな…」
「…! カミュア様っ!」
ライトの声にカミュアが反応した。目は赤く腫れ上がり、乱れた髪は泣き崩した顔に張り付いている。一生分の涙を使いきったように放心状態だった。ゆっくりとライトの方に顔を向ける。
カミュはボロボロ涙を流した。声も上げず、ただただ泣いた。
ライトはそっとカミュアに寄り添い、優しく声をかける。
「大丈夫ですか? お怪我は…?」
「…」
今度はカイトに向けて話しかける。
「アーリーン様は…?」
「…」
カイトはアトリエの方に視線を送る。アトリエにいるのだろうか。ライトはカミュアをそっと椅子に座らせ、アトリエに向かった。その後をジェイクがついていく。
「…っう…」
奥の方で動く物音が聞こえた。
「アーリーン様?」
ライトが駆け寄ると、二人の人物が重なるように倒れている姿が見えた。よかった…。どうやら二人は息をしているようだ。
「アーリーン様! ララ様!」
そこにはアーリーンに覆い被さり、聖なる光からアーリーンを守るような体制でララが倒れていた。その下から、息も絶え絶えのアーリーンが身を縮めて倒れている。
「大丈夫ですか? 今お助けいたします!」
「ら、ライト?」
「喋らない方が良いかと…」
ララの背中は焼けただれ、息をしているのがやっとのようだった。そして側にはララのストーンが、色褪せて転がっていた。闇のパワーで、結界を作っていたのかもしれない。それでもこの有り様は、カイトの力が物凄いことを物語っていた。
アーリーンはララの体を起こす。ララの顔もまた、涙で濡れていた。
「ララ先生…」
パリンッ。
アーリーンの首から下げていた丸いアクセサリーが、音をたてて割れ落ちた。これはミッシェルから託されたアクセサリー。聖なるものから身を守ると言われていたお守りだ。
「先生…」
アーリーンには分かっていた。ミッシェルが既にいないことも、悲しい結末を迎えてしまったことも。今まであった見えない支えが、不意になくなったような感覚がアーリーンを襲う。
「ジェイク様、ララ様を学園の救護室にお連れ頂けますか?」
「う、うん」
「アーリーン様、ご無事で何よりです。まずは学園にお戻りください。歩けますか?」
「カミュアは? カミュアは無事なのか?」
アーリーンが物凄い形相でジェイクを揺さぶるので、ジェイクはガクガクしている。
「大丈夫です。今はそっとしておいてあげてください」
そう言うと、ライトはカミュアのもとへ急いだ。
一方美術室では、カミュアとカイトが先程の姿勢のまま時が止まったように一点を見つめていた。
「カミュア様。戻りましょう」
「…」
カミュアは電池の切れた人形のようにぐったりしている。
「ライト…、僕が連れていくよ」
「カイト様」
「人間界の後始末を…頼む。ミッシェルから何か聞いているだろ?」
ライトは、カイトの目をじっと見つめる。この男がミッシェルを葬ったのかと考えると、素直に事の
悪魔は消えたら終わりなのだ。天使にも、人間にもなれない。完全消去なのだから…。
「わかりました」
ライトは目を伏せ、残された本2冊を抱え急いでアリスの元へ向かった。全ての記憶、破壊されたもの全てをなかったことにするために。
ライトにはルーナから、人間の記憶を変えることが出来る特殊能力を与えられていた。もちろん幸せのために活用することが大前提だ。
今回はちょっと対応する人間が多すぎる。
カイトはカミュアから抵抗されるかと覚悟をしていたが、そんな力もないかのように項垂れたカミュアは、大人しくカイトに従って人間界を後にした。
残された8名の肖像画は、第20級天使族の者たちによって回収された。恐らく行方不明になっている天使の魂の調査も本格的に入るだろ。
すでに地獄へ落ちてしまっていたら、救いようがないが…。
こうして長い一日は終わった。
ミッシェルを失った彼らの心に大きな悲しみを背負わせて…。
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