第11話 前夜祭
「気持ちよさそうに寝てるな」
アーリーンはベッドの中で眠るカミュアの寝顔を眺めていた。何度見ても、何時間見ていても飽きない。いつの間にか顔がにやけている自分に気づく。
アリスからの誘いを受けた後、ミッシェルが予言したように次の犠牲者はカミュアだと確信したアーリーンは、カミュアの側から離れないと誓った。
ミラノの時もそうだったが、アリスの目が全てを物語っている。獲物を見る目。
ライトはミッシェルの
そんなわけで今、カミュアはアーリーンの部屋で気持ち良さそうに寝息を立てているのだ。
風呂から上がったアーリーンは、カミュアの寝顔を確認してからバスタオルで頭をごしごし拭く。礼拝堂の聖なる光を払い落とす様に全身をゴシゴシ洗い流していた。皮膚がちょっとヒリヒリするのは、洗いすぎのせいでもある。
アーリーンは自分の背中の刻印を鏡越しに確認して大きなため息をついた。
「また印が濃くなった気がするな…」
何故こんな刻印が自分にあるのか、考えてみてもさっぱりわからない。そして明日会うであろうマイクの事を考えると、背中の刻印が疼くような気がしてならない。まるでこの印は、悪魔探知機のような存在になっている。
アーリーンはカミュアにベッドを譲り、ソファーにどかっと腰を下ろした。
先ほど、悪魔族専用図書室での会議でミッシェルが言っていたことをアーリーンは思い出していた。
ジェイクが報告した被害者全員と関わりのあった人物たち。それは…「アリス」「マイク」「ガルシア」「リチャード」この4名だった。
アーリーンはスマホに送ってもらったデータを確認する。
「ガルシア先生は、アリスの担任…。生徒指導部主任だって書いてあるから、多くの生徒と繋がりがあっても不思議じゃない」
続いてリチャードの資料を表示させる。リチャードは優しそうなお爺さんといった第一印象だった。
「リチャード…。うん? 教師じゃないんだな。庭師ってなんだ? 見かけたことないよな?」
アーリーンはここ何日間かで出会った人間たちについて思い出してみるが、リチャードという人物に会った記憶がない。だからジェイクのパソコン、キャリーが吐き出した関係者の中の1名だったけれど、ふ~んとスルーする。
やっぱり本命はアリスとマイクだと証明された様な気がしていた。
会ってない=悪魔の可能性なし。と判断するのは時期早々かもしれない。
* * *
「明日、奴が動くぞ」
「先生、なんでわかるんすか?」
アーリーンもうすうす感じてはいたし、ある意味覚悟もしていたが、ミラノの死からまだ2日しかたっていない。そんなに早く行動するものなのだろうか?疑問だ。
カミュアも神妙な面持ちで質問をする。
「僕は…どうすればいい?」
「カミュアは、ライトと部屋で待っていればいい。でしょ? 先生」
つかさずアーリーンは答える。これ以上カミュアを巻き込みたくない、という意思表示だ。
しかし、カミュアそれを望んでいない。なんだかいつもと違うカミュアの態度が、アーリーンは気になってしかたがなかった。アーリーンとは違う得体のしれない覚悟を、カミュアは抱いている様に見える。
「イヤ…。カミュアもアリスと行動を共にして欲しい」
「うん。わかった」
「ミッシェル先生!
「アーリーン、カミュアは大丈夫だ。アリスにそんな力はない」
ミッシェルはいつもの場所で腕を組みながら深く考えている。だからカイトもジェイクも一言も発言せずにいる。
何とか言って欲しいとアーリーンは思っていた。9人目の犠牲者がカミュアだって、みんな思っているのに何も言わないなんて酷すぎる! とアーリーンは内心イライラしていた。
「アーリーン、僕は大丈夫だよ。こう見えても天使だからね。アリスに負ける気がしないよ。心配してくれてありがとう。嬉しいよ。それにさ、アーリーンをジューって出来るならさ、悪い悪魔だってやっつけられるさ」
「カミュア…」
カミュアが微笑む。可愛らしくてギュってしたくなる。でも心に不安を抱えているのだろう。笑顔がぎこちない。
「ジェイク、明日はカミュアたちと行動を共にしてほしいんだが、いいかな?」
「もちろんです」
ミッシェルはジェイクの言葉に頷き、こう続けた。
「これ以上の犠牲をだすことなく、奴を封印する。お前たちも心配するな。いつも通り行動してくれ。決して自分たちの力を誇示しないように。奴に気づかれる前に地獄に送り届けるぞ」
みんなが大きく頷く。
「俺もカイトも
じゃ、解散! と言って
* * *
―― 心配するなって言われてもな。
アーリーンは最後にミッシェルに呼び止められたことも思い出していた。
―― そんなこと言われてもな…。上手くできるんだろうか。
カミュアを守り、これ以上人間の犠牲者をださず、悪魔を封印する。そんなことが果たしてできるのだろうか?
誰かが犠牲にならなければならないのであれば、それはカミュアではない。自分でなければならない。とアーリーンは考えていた。
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